「あっ、大丈夫。たい焼き屋さんには色々と相談に乗ってもらったりしてたから。それ以外はもれなく叩き割ったけど」
がはは、と幼い顔に似つかわしくない豪快な笑い声。
やっぱり親子なんだ。
「それから色んなことがあって、僕も子供ができて、それで一言お礼が言いたくてお願いしたんだけど__過去だったかぁ」
「すみません」
「たい焼き屋さんのせいじゃないよ。どっちに行くかは運次第だって、たい焼き屋さんに__あっ、未来のね。そういえば、未来のたい焼き屋さ__」
「ああ、僕は大丈夫なんで!」
とっさに遮った。
空気の分際で、お客さんの話を強引に止めてしまった。
「そっか。知っちゃうと楽しみが無くなるか」
『楽しみ⁉︎』と思わないでもなかったが、ここは懸命に堪えて神妙に頷いておく。
「お茶、いれ直しましょうか?」
と。
すると青年は思い出したように、ポケットからなにかを取り出した。
苴だ。
木の薄板に包(くる)まれた、食べかけのたい焼き。
「これ食べないと、戻れないんですよね?」
「__はい」
そっと、熱いお茶を差し出す。
尻尾しかないたい焼きを、青年はしばらく名残惜しそうに見つめていた__。