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困惑顔の青年に、僕はとっておきの秘密を打ち明けるように言った。

「1尾って頼む人は、楽さんしか居ないんで」


おそらく、含み笑いをしていたことだろう。

ひとって、秘密を共有すると仲良くなる。


「たい焼きも立派な魚だと、小さい頃、そう教えられました」

「楽さんらしいですね」

「はい、親父らしいです」


笑うと、目尻が下がる。

「そうじゃなくても、目元がそっくりですよ。親子同士は気づかないかもしれないけど、他人から見たらうりふたつ」

「参ったなぁ」


頭をかく青年は、楽さんが去っていったほうを振り返った。


それも、とても長い時間。

「まさか、親父があんな感じだと思わなかった」


「あんな感じ?」

「僕の知ってる親父は、自分そのものが正解だっていうひとで。それを指摘したり正したりするひとが居なかった。小さい頃は、それが随分と眩しかったりして」

「自信家だったんですね」

「そんな優しいもんじゃなかったな」



軽く笑った青年は、またどこか遠くを見やる。

それは『ここ』ではないどこかに思いを馳せている目で。

ふと思い出したように、顔を上げた。


「そういや僕__【未来】に行きたかったんだけどなぁ」