「そういえば、源さんはなんて書いたんですか?」

僕が尋ねると、源さんは途端に顔をしかめた。


「んなもん、どーだっていいだろうが!」と、やや慌て始める。

「自分だけ教えないなんて、ずるくないか?」


亀さんを筆頭に、笹に下げられた短冊の中から源さんのを探せ探せと、橋の上でちょっとした騒ぎになる。

「ほら、早く投げんぞ!日が明けちまう!」


無理やり笹を流そうとするので、余計に躍起になって探そうとしたが__。



ばさり。


笹が橋から落ち、川に流されていく。

月明かりに照らされて、さらさらと流れていくたくさんの願い事。


いろんな思いが詰まっているだろう。



そのうちいくつが叶うのか?

僕としては、なんだか陽子さんの可愛らしい願い事だけでも叶えてあげてほしいけど。



美代ちゃんの願い事もあったな。

【彼氏とうまくいきますように】


一体、どの彼氏かな?



牧子さんは大きくふた文字【旦那】とあった。そう思うと、色恋の願い事が多い気がする。


由梨さんは確か【なにもいらない】と書いてあったっけ。



願い事がないのは、心が満たされている証拠かな?

でも、僕が1番に叶えてほしい願い事は、源さんだ。



源さんはとても達筆で、その癖のある字はひと目で分かる。