岩瀬橋に着いた。
この橋の上から、笹の葉を流すんだ。
「たい焼き屋さん」
そんな声に振り返ると、陽子さんが手を振って近づいてくる。
紫陽花柄の、艶やかな浴衣を着ていた。
すっかり顔色も良くなり、毎日のようにたい焼きを買いに来てくれる。
もちろん、あんナシたい焼きを。
「なんて書いたの?短冊」
「僕は__内緒です」
「内緒なの?」
ふふっと笑って、空を見上げる。
無数の星が散らばっている、そのうちのひとつに微笑みかけたのかもしれない。
実は、見るつもりはなかったのに、陽子さんがぶら下げていた短冊を見てしまった。
そこにはこう書かれていた。
【あなたに会う時、できれば若返りますように】
意味が分からなかったけれど、どこか乙女心が垣間見えて__。
「たい焼き屋さん」
真っ赤な扇子を仰いで緩やかにやってくるのは、タピオカ屋のマリさんだった。
髪を結い上げ、肩がはだけ、まるで花魁。
この色気はやはり、ある程度の年を重ねていないと出せないものだ。
「マリさんは短冊、なんて書いたんですか?」
「私?私はね__」
扇子で口元を隠しながら、僕の耳元に近寄る。
きっと彦星もこうやって胸を高鳴らせていたに違いない。
そして織姫は言ったんだ。
「ひ・み・つ」