8
「おかえりなさい」
静かに体を起こした陽子さんに、僕は静かに声をかけた。
何度も瞬きをし、僕の顔に見入っている。
「あぁ、たい焼き屋さん」
「はい、たい焼き屋です」
僕が頷くと「若い頃のたい焼き屋さんね」と、よく分からないことを言った。
涙の跡がある。
まだ乾いていないし、目も赤く充血していたけど___陽子さんの顔から曇りが消えたように思う。
未来で、なにかを見つけたのかもしれない。
「たい焼き、焼いてくれる?」
「えっ⁉︎」
「そんな驚かなくていいわよ。普通のほうのたい焼きだから」
「ああ、そうですか。いくつにします?」
「そうね__5枚にしようかな」
「はい、5枚ですね」
「それから、あんナシたい焼き1枚ね」
「えっ」と言葉に詰まる僕を見て、陽子さんがぷっと吹き出した。
「大丈夫よ。直也にお供えするやつだから」
「分かりました」
チャッキリを手に、生地を流し込む。
あんナシをパクパクと頬張る、直也くんの姿が目に浮かぶ。
僕は心を込めて焼いた。
どうか、直也くんに届きますように。