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「いらっしゃい」
さっきよりは、砕けた声のような気がする。
私は『ありき』に戻ってきた。
おじいさんの店主が、たい焼きを焼いて__?
「それって、また?」
私は、黒い特別な鉄板を指差した。
一丁焼きの鉄板だ。
もう私には必要ないから、誰か別のひとが食べるのだろう。
過去か未来に行くことを望んでいる、誰か。
それとも、もしかしたらたい焼き屋が食べるのかもしれない。
探し物を見つけるために__。
「お茶、淹れましょうか?」
「えっ?」
「今からたくさん、食べないといけない」
「あっ、そうか」
私は、ぱんぱんに膨らんだポケットから、食べかけのたい焼きを取り出した。
3つある。
半分のたい焼きが3つ。
これをすべて食べないことには、元の時代に戻れない。
「はい、どうぞ」
やっぱりたい焼きには、熱々の緑茶だ。
食べかけを一つつかみ、かじる。
冷えてぱりぱりだけれど、緑茶を一緒に飲むと柔らかくなる。
あんことお茶が溶け合って、なかなか美味しい。
「いっぱい泣いて疲れたから、余裕で食べられそう」
二つめに取りかかる。
すべて食べ終われば、直也を失くした時代に戻ってしまう。
でも、私は大丈夫だ。
守るべき約束を、交わしたから__。