「ちゃんと、食べてる?ご飯、どうしてるの?」

「向こうでは寮みたいなところにいるんだ。食べないと怒られる」

「そうなの?お腹、冷やしちゃダメよ?」

「ちゃんとズボンの中に入れてるよ」

「喘息は?直也、軽い喘息あったでしょ?」

「いつの間にか治ったよ」

「布団とかよく蹴るから、風邪ひかないようにね?梅雨だけど、まだ夜は寒いから」

「天国には梅雨はないよ?雨も降らないんだ」

「そうなの?」

「うん。だから紫陽花もないんだ。たまに見たくなる時がある」

「紫陽花、綺麗だもんね」

「お母さんが好きな花だもんね」

「覚えててくれたの?」

「うん、忘れないよ」

「直也」


我慢できずに、私は直也を抱きしめた。



私の私の大事な子。

俊介を生んでも、俊也を授かっても、私はこの子が1番、大切だ。もう2度と会えないと思っていた、私の宝物。私の命。ううん、命より大切な存在だ。



「直也、ごめんね」

「どうして謝るの?」


私の胸に押し潰されている直也が、くぐもった声で尋ねる。


胸から離し、髪の毛を撫でた。

「ごめんね」


答えになっていないけど、直也が静かに首を振る。

もう、この子は子どもじゃないんだ。



ひとりで逞しく生きている。

黙って私に、抱きしめられるくらいに__。