「僕は、天国から来たんだよ。だからみんな、僕のことは見えないはずなんだけど?お母さんしか見えないのに、来たらお母さんが2人いるなんて」
「直くん、天国にいるの?」
「うん、ずっといるよ」
「そう、なんだ」
私は尻もちをつくように、ぺたりと座り込んだ。
力が抜けてしまって、立ち上がることができない。安堵感からか、手を伸ばして直也の腕を掴むのが精一杯だ。
会うことができたら、もっとたくさん言うべきことがあった。
それなのに、いざその時がくると__なにもできない。
情けない母親だ。
「それよりお母さん、どうしてここにいるの?」
「それは__直也を探してたら、ここに来ちゃったの。まさか、本当に会えるとは思わなかった」
「ひとはね、死んだときに1人だけ、会いたいひとに会えるんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから僕が迎えに来たんだ」
直也が、小さな胸を張る。
その瞬間、私の胸が張り裂けそうになった。
「直くん、寂しくない?大丈夫?」
「うん、みんないるから大丈夫だよ」
「みんなって?」
「うーん、あっちで知り合った友達とか。最初はひとりだったから泣いてばかりいたけどね」
ふふふっと含み笑いをする。
それな直也が、よくする癖だった。
「痛く、なかった?」
「お母さん」
「ん?」
「僕はもう、大丈夫だよ」