直也が、私の前に立っている。
きょろきょろと周りを見回し、私と目が合うと首を傾げた。
「直、也?」
「あれ?お母さん?」
間違いない、直也の声だ。
「な、直也っ!」
私が飛びかかろうとすると「しっ!」と口に指を当てる。
「お母さん、みんなに見られてる」
「えっ?」
「こっち!」
直也が、私の手を掴んだ。
病室から出るときに振り返ると、あかりさんが訝しげな表情で私を見ていた気がする。
廊下を進み、角を曲がる。
「直也?あの、直くん?」
私の呼びかけにも返事をせず、ぐんぐんと進んでいく。
小さいけれど、温もりのある手。
しっかりとした足取りで私を引っ張る直也と、混乱したまま足を絡ませてついていく私。保護者と子どもが、入れ替わったようだった。
「ここならいいかな」
直也が手を離し、私と向き直る。
居なくなった時のままだ。
私はたい焼きを3枚食べた。1枚につき20年進むとして、60年後の未来なのに、直也は幼い頃のまま。
これは一体、どういうことか?
これこそ、夢なの?
「夢じゃないよ」
「えっ?」
「僕、お母さんを迎えに来たんだ」
「__私を?」
「ううん、違うよ」
直也が首を振る。
「死んじゃったお母さんを迎えに来たんだ」