香ばしく焼き上げられた、小ぶりのたい焼き。

いつも買うから、私にはわかる。これは、いつものふっくらしたたい焼きじゃない。あの1枚ずつ焼く鉄板でできあがった、特別なたい焼き。



でも、これを食べたところでまた『未来』に行くだけじゃないの__?

直也に会うことはできない。



私の1番の願いは、もう叶うことはないんだ。

「よく、降りますねぇ」


おじいさんは、お店の窓から外を眺めていた。



アーケードは雨が降らない。

でも音は聞こえる。気づかなかったが、この肌にまとわりつく湿気からして、今は梅雨なのか?そういえば、ここから見える笹の葉にはカラフルな短冊がぶら下がっている。



あそこに書けば、私の願いは叶うだろうか?


直也はいつも『お寿司屋さんになる』と書いて稔を喜ばせていた。

でも、本当にそう思っていたの?



あなたはいつも、周りを気遣う癖があるから__。

それを確かめる術は、もうないけれど。


「食べないんですか?」

「えっ__?」

「たい焼き屋の願い事って、知ってますか?」


店先にぶら下がっている短冊を見上げながら、おじいさんが言った。

たい焼き屋が尋ねる、たい焼き屋の願い事???

「焼きたてを食べてもらうことですよ」



そう言って、たい焼き屋が目尻を下げる。

思わずつられてしまうような優しい笑顔に、つい私はたい焼きを手に取った。


そして鯛の唇にキスをするように、私はひと口かじったんだ__。