「いらっしゃいませ」
その店はちゃんとまだあった。甘い香りがする。
和菓子なのに、ふんわりとした滑らかな洋菓子の香りがする、不思議なたい焼きや。
『ありき』の主は、おじいさんになっていた。
それなのに、胸を締めつける懐かしさに襲われる。
ここが居場所であるような、安心感。
「おいくつにしますか?」
優しく問いかけられた時、私の目から涙が流れた。
大粒の涙が、流れたんだ。
拭っても拭っても、溢れてくる。涙を止めようとすると、嗚咽が漏れてくる。泣くのを堪えようとすると、声が零れて__私は、しゃくり上げて泣いた。
直也が居なくても、世界は回っていく。
私だって、生きていくんだ。
もし元の時代に戻って、私が直也の後を追って自ら命を断てば、俊介はどうなる?俊也はどうなる?
ううん、未来は変わらない。私が見てきた未来は変わらない。
私は生きる。
直也が居なくても、生きていくんだ__。
「直也っ」
ああ、会いたい。
あの子に会いたい。
ひとめでいいから、最後にあの子に会いたい。
私の心にぽっかり開いた穴は、あの子にしか埋められない。
「直也ぁ」
机に突っ伏して、直也の名前を呼び続けた。
何度も、何度も__。
「お待たせしました」
「__えっ?」
思わず顔を上げる。