「俺さ、直也になったほうがいいのかって思った時があって。それ、親父に言っちゃったことあるんだよね」
「お父、さんに?」
「そしたら親父、すまんって泣いて謝ってさ。親父が泣いたの見たの、後にも先にもあれだけで。俺が悪いって、俺のせいでってさ」
「そう、お父さんがそんなこと」
未来の私はそう言って、ビールを俊介のコップに注いだ。
そして自分のビールを、ごくごくと飲む。喉を鳴らして、美味しそうに__。
私が立っていられず、座り込んで泣いているというのに。
声を押し殺して泣いているというのに、40年も経てば強くなるのだろうか?あんなにも、強くなるのか?
私はいまだに、稔と話し合ったことはない。何度か声を掛けられたが、私がそれを突っぱねていた。
直也のことを話し合うということは、直也そのものを消化してしまう。それだけは絶対にしたくはない。
でもその稔が、ずっと責任を感じていたなんて。
俊介が、こんなにも悩んでいたなんて。
苦しいのは私だけじゃない。
息子を失ったのは、稔も同じだ。
「母さん、今までありがとう」
「俊介__」
「あと、あかりのことよろしく」
「こちらこそ」
恭(うやうや)しく頭を下げる私と、廊下の片隅でうずくまっている私は、同時に思っただろう。
結局、それが言いたかったのか。