俊介が『喜多川』を継ぐらしい。もう早くからお店で修行しているらしく、稔もそろそろ代がわりを考えている様子だ。

お店の2階と3階をリフォームし、あかりさんを迎え入れる。


感じが良いからきっと、お客さんにも好かれるだろう。

どこかホッとしている自分がいた。


老いた自分に、気持ちを重ねたからだろうか?

「あかりさん、休んだの?」


みんなが寝静まった頃、キッチンに下りてきたのは俊介だった。

私はひとりで、ビールを飲んでいる。


主婦なんてそんなものだ。すべてが片づいてからじゃないと、なにかを味わう気になれない。

ビールの苦さが、喉に広がっていくようで__。


「一杯、ちょうだい」と、俊介がコップを差し出す。



黙って注いでやると、半分ほど飲んでテーブルの向かいに座った。

「母さんはさ、俺をずっと直也だと思ってたよね?」

「えっ?」


思わず声を出してしまい、慌てて口を押さえた。


「小さい頃さ、よく俺のこと『直也』って呼び間違えたよ。母さん、気づいてなかっただろ?俺はさ、子供ながらに傷ついたよ。でも、どうしても文句が言えなかった。言っちゃいけないって、それだけは分かってたんだよなぁ」

俊介が、残りのビールを飲み干した。