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まず、線香の匂いが鼻をついた。

ぼんやりした視界の霧が晴れていくと__見知らぬ女性が神妙に手を合わせている。


直也が微笑む、遺影に向かって。



その隣には、すっかり大人となった青年が静かに見守っていた。

あれから20年か。


随分と大きくなったな。自転車でフラついていた面影はない。

20年後の未来で、私は廊下の陰に身を潜めていた。


「あかりさん、こっち座って」

リビングから『私』の声がする。


恐る恐る首を伸ばすと、しっかりと老け込んだ私が忙しなく動いているのが見えた。あれから20年ということは、私はもう還暦をとうに過ぎている。


それにしては、若く見えるかもしれない。



変なところで感心していると「おかあさん、私も手伝います」と、あかりと呼ばれたお嬢さんがキッチンに向かう。

「いいのいいの。今日まではお客さん。結婚したら、嫌ほどこき使われるのよ。座ってて」

「でも__」

あかりさんが困った顔でテーブルに戻るも、男どもは知らん顔で晩酌を始めている。



なにしてるのよ、あんたが助けてやんないとダメでしょ‼︎

呑気にビールを飲む、未来の息子を叱りつけた。


もちろん、心の中で。