言われた通りの卵を買うと、男の子はスーパーを出てアーケードに戻っていく。

その様子は、慎重そのものだった。


『喜多川』に入っていくのを見届けてから、私は来た道を戻る。



もう、俯くのさえ忘れていた。商店街の知り合いに会ってはいけないと、さっきまで胸をどきどきさせていたのに__違う意味でどきどきしている。

それは間違いようのない、怒りだ。


「いらっしゃいませ」



柔らかい声に出迎えられたが、私は黙って睨みつける。

「あの__?」


私の剣幕に驚いた様子だったけれど、しばらくすると表情が小さくなっていく。徐々に小さくなり、やがて消えた。



「私、未来になんて用はないの。過去に戻して」

「__それはできません」


そう答えたのは『ありき』の店主だ。



私が知っている時の20年後にもかかわらず、あまり老けているように見えない。もちろん、若さは失われているし、皺だって刻まれている。

でも__優しい時の流れ方をしたのか、ふんわりした空気をまとっていた。



「あれでしょ?私に未来を見せて、生きるように勇気づけるつもりでしょ?新しい未来があるから迷わず生きろって?」

私は、鼻で笑った。


「冗談じゃないわ!」