直也は、トラックに巻き込まれた。
小さな体が、トラックの下敷きになったんだ。
事故現場には、今でも献花台が置かれている。みずみずしい紫陽花が、そこに挿さっていた。
あの時、急に小雨が降り出して__なんだか不安になった私は、傘を持ってお店を飛び出した。買い物なんて行かせるんじゃなかった、そう悔やんで。
稔はなんでもすぐ「一人前」と言うのが口癖で、直也を大人として扱おうとしたけれど、あの子はまだ子どもだ。心の優しい、子どもなんだ。
私はひとり、怒って横断歩道を渡った記憶がある。
『お母さん、お母さんの好きな花はなに?』
こっそりと直也が訊いてきた。
直也は花や植物が好きだった。自然を愛でる清らかな心の持ち主だと喜んだものの、男のくせにとケチをつける父親の手前、私だけに打ち明け話をするように__。
『お母さんは、紫陽花が好きかな』
『いつもお店にお花、飾ってるね』
『そうね。お客さんも喜んでくれるし』
『じゃ、今度は紫陽花を飾らなくちゃね』
『そうね、そうしようか?』
私は、呆然と立ち尽くす。
へしゃげた自転車、引きずり込まれた小さな手足。
その傍に、紫陽花が潰れていた。
直也は買い物とは別に、紫陽花を買ったらしい。
『お母さんにあげるんだ』と。