乗り慣れていないのか?
いや、体が大きいのに、自転車が小さい。どうして体に合った自転車を買ってやらないのか?
男の子はフラフラと自転車を漕ぎながら、アーケード内を進む。
「俊ちゃん、お使いかい?えらいね」
声を掛けてきたのは、揉みじやの牧子さんだ。20年経っているのに、今とあまり変わらない。
俊介は右手で手を振ったが、その拍子に大きくぐらついた。
「あっ!」
私が駆け寄るより先に、牧子さんが支えてくれたので、小走りに2人を追い抜いた。見つかったら厄介だ。
顔を背けたまま、先にアーケードを出て待つことにした。
いくらなんでも、あの子は私のことに気づかないだろう。
まだここはいい。
見通しもいいし、アーケードに車が入らないため安全だ。
信号が変わるのを、少し距離を保って待った。
おとなしく向こう側の信号機を見つめている真剣な横顔を見ていると、どうしても直也と重なってしまう。
ぱっと見は似ていないのに、どんどんどんどん、直也になっていく。
ああ、直也は生きているんだ__そう思いさえする。
信号が青に変わると、一気にペダルを漕いで遠ざかっていく背中。
私は涙を拭い、後を追った。