「ただいま‼︎」

弾けんばかりの元気な声が、2階から聞こえてきた。


挨拶が要だと、直也に厳しく教えたのは義父だ。だから直也は、商店街のひとにもちゃんと挨拶ができた。

たとえ家の中に誰も居なくても、挨拶を習慣づけるために__。


とんとんと階段を上がってくる足音がする。



まさかっ?

咄嗟に部屋を飛び出し、廊下の角に隠れた。



駆け上がってくる。

遺影を見たのに、あれは直也の部屋じゃないのに、私の胸は破裂しそうなほどに高鳴っていた。



やがて、ランドセルを背負った男の子がやってきて、部屋に入っていく。

その横顔は、とても稔に似ていた。



でも__直也ではない。

たぶん同じ年だろうが、直也よりずっと体格が良くて、調子っぱずれな鼻歌が聞こえてくる。



あの子は、私の子なのか?

これが、私の未来だというのか?


直也を失った悲しみを乗り越えて、また新しい家族の形を築き上げていくのか?直也の思い出を上書きするとでもいうの?

ふつふつとこみ上げてくる怒りは、すぐにかき消えた。


冷や水でも浴びせられたように__。



「俊介(しゅんすけ)!お使いに行ってきて!」

そんな声が聞こえていたからだ。



それは紛れもない、私の声だった。