4
夢?
夢を見ていたの?
とても長くて、とても悲しい夢を。胸が張り裂けるような、寂しい夢。
でもそれなら良かった。
こんな嬉しいことはない。直也を亡くしたことが夢だったのなら、目を覚ませばいいだけだ。
それなのに__どうしてこんなにも胸が痛いのか?
あの子を失ってからずっと、私は息をしていなかったように思う。
気を抜けば、呼吸の仕方を忘れてしまうんだ。何度も病院に運ばれた。これまで当たり前に出来ていたことが突然、考えても出来なくなっていた。
考えれば考えるほど、分からなくなってしまう。
体と心が、全力で拒否をしていた。
直也が居なくなったと認めることを、全否定していた。
この胸の苦しみは、夢じゃない。
私にはわかる。
夢だったら__という希望を持つのは、とっくの昔に諦めた。
飲めばあの子と会話ができる水や、身につけるとあの子を感じることができる数珠、あの子の魂を呼び寄せる壺も、私にはなんの意味もなかった。
希望を持つことが、どれだけ残酷なことかを思い知ったんだ。
しかし、認めることはできない。だってそれは、絶望でしかないのだから__。
でもそんな時、妙な噂を耳にしたんだ。
『食べれば過去に戻れるたい焼きがあるらしい』
ポケットに手を入れた。
また、希望を抱いてもいいのだろうか?
食べかけのたい焼きを見下ろし、私は誰にともなく問いかけた。