「あいつ、病院にも行ってねーんだろ?」
すでに初孫が4人もいる源さんは、呆れ顔だ。
「まだ名前もつけてないって聞いたな」
結婚が早かった亀さんにいたっては、こないだひ孫が生まれた。
吾郎さんは孫はまだいないが、心配そうに考え込んでいる。
若い頃からこの商店街を切り盛りしてきた、立役者たち。
揉め事を武勇伝のように話してくれる仲に、ようやくなれたのだろう。だからこそ、どうにかしてやりたいという気持ちと、どこまで立ち入っていいのかという線引きの間で、3人は揺れている。
こういう時、僕はなにも言わない。
話は聞くでもなく聞くし、意見を求められれば答えるけれど、あえて自分からはなにも言わないようにしている。
「ちょっくら、覗いてく?」
そう言ったのは、吾郎さんだった。
「そうだな。たい焼き持ってくか?」と亀さんが後に続く。
「こいつが焼きすぎたから仕方なくってことにしねーか?」
源さんが僕を指差すので、どーぞどーぞと心の中で返す。
どーぞ僕をダシに使って下さい。
結局、3人は焼き上がろうとしていたたい焼きを全部、買っていってくれた。
楽さんの分じゃなくても、店番をしてくれている奥さんへの土産にいつも買ってくれるんだ。
「ありがとうございます」
僕は、3人の背中を見送った。