「あの子にね、お使いを頼んだの」

突然、陽子さんが話し出した。


僕にじゃなく、どこか遠くを見つめて、まるで自分自身に聞かせるように__。



「私は、まだ早いって思ってた。この商店街に出前をするくらいは構わない。車は通らないし、万が一のことがあっても、たくさん店があるから。みんなが目を光らせてくれるから安心だった。でも、通りの向こうのスーパーは、車も多いし__心配だったの」

そこまで一気に喋ると、大きく息を吐く。その吐息は、怖いくらいに震えていた。


「でもあの人が、もう1人でそれくらいできなきゃいけないって。俺の時は、あのくらいの年から店の小間使いで、男の子は失敗から学ぶんだって」



陽子さんは、若大将である旦那さんの稔(みのる)さんの言葉を代弁している。

きっとそこには、次の代を継いでほいという思いがあったんじゃないか?


だからこそ、直也くんを外に出した。

「あの子が買い物から帰ってくるまで、私は生きた心地がしなかった。ただいまー!って帰ってくると、いつもあの子のことを痛いくらいに抱きしめた。ああ良かったって、息を吹き返す思いだった」



苦悶に満ちたその表情は、まだ息をしていない証拠。

陽子さんはずっと、息をしていないんだ。