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雨が降っている。
足元が悪くなると当然、お客さんが遠のき、眠っているように静かだ。アーケードに落ちる雨の音だけが、商店街を訪れていた。
梅雨だから仕方がない。
商店街の婦人会が、少しでも気分を軽くしようとあちこちに『紫陽花』を飾る。紫陽花祭りも、もうすぐ催される。
でも__そういったものでは決して拭えない膜が商店街全体を覆っていた。
悲しみだ。
重くて逃げ場のない悲しみに、大丸商店街は包まれていた__。
雨のカーテンは、ずっと閉まったまま。
まるで、誰かの悲しみをごまかすかのように。
「お前ら、来てたのか」
最後に入ってきた源さんは、先に来ていた亀さんたちに声をかけると、黙って椅子に座った。
みんな、いつにも増して口数が少ない。
大志くんでさえ、たい焼きに手を伸ばすでもなく静かにしている。
「どうだった?」
柔らかい声で尋ねたのは、吾郎さんだった。
源さんが遅れてきたのには、ワケがあったんだ。
僕が出したお茶を味わうようにして半分ほど飲むと__。
「参ったよ」
それだけで、充分だった。
源さんは、商店街で唯一のお寿司屋さんである『喜多川』に行っていたんだ。