黙ってアルバムを開いた菊池さんが、顔を上げる。

「たい焼き?」

「はい、菊池さんが撮ってくれたんです」


僕が答えると、ゆっくりとページをめくっていく。


どのページも、たい焼きの写真ばかりだった。



「泳げ!たい焼きくん、知ってますか?」

「ああ、少し前に流行ったやつ」

「じゃ、歌詞も知ってますよね?」

「歌詞__?」


首を傾げた菊池さんの口から、例のフレーズが流れてくる。



「まいにちまいにち、僕らは鉄板の、上で焼かれて」

「嫌になっちゃうよ」ですと、僕はそこを強調する。


本当にひどい歌詞だ。

「それを、菊池さんに愚痴ったことがあって。そしたら菊池さん、たい焼きを食べに来てくれるたびに、たい焼きの写真を撮ってくれて。そんな嫌な顔してないよって」


シャッターを押してから、パクりといくのか菊池さんの食べ方だった。

その言葉に、心がほっこりしたのを覚えている。


「そうだな。どれも、表情が違う。角度にもよるけど、どのたい焼きも__嫌な顔してない」



そう言って、真剣な顔でアルバムを見つめていた。

「おい、もう結婚式はじまんぞ!何してんだ!」


源さんのがなり声に、慌てて店の外に出る。ちょうど観音様から、大きな舟がやってくるところだった。

「すぐ行きます!」