菊池さんは一周すると、再び焼け野原に戻り、食い入るように写真を見つめいる。
難しい顔をして、僕には分からない構図の視点から見ているのかもしれない。
「ああ、これは揉みじやの子だ。何度言っても笑ってくれなかったんだ。たぶん、まだ越してきたばかりで、色々と不安だったんだろうなぁ」
しみじみと語る視線の先には、笑顔どころかプイッと横を向いている由梨さんと、困り顔の牧子さん。
「今日、その子が結婚しますよ」
「えっ⁉︎ホントに?」
「はい、ホントです」
柔らかく笑う菊池さんから、過去のお店の逸話を教えてもらいながら、写真を見て回った。
お店の繁栄から衰退、家族の成長、そこには笑顔もあれば泣き顔もあったという。
たくさんの、本当にたくさんの人生を、レンズから覗いていたのだと。
「そう思うと、贅沢なのかもなぁ」
と、これから自分が撮るであろう写真を眺めながら言った。
その時、わあっと声が上がる。
いつの間にか、この写真館の中には商店街のお店のひとで溢れ返っていた。
みんな、待っていたんだ。
「うわっ」
菊池さんが悲鳴に近い声を上げ、僕の後ろに隠れる。
「今日は、お疲れ様会なんです」
「まさか__僕の?」
「はい」