「もう夏なのに、何もしてない」




暑い暑いと言いながらも、動き回る優太に私は少しわがままを言ってみた。





夏祭りも行きたいし、海だって。
スイカ割りもね。




楽しみは沢山あるから、考えるだけで少しにやけてしまう。






「遥斗が花火したいって言ってたから今日にでもする?」





私の髪を優しく触りながら、一瞬だけ何かを考えるようなそぶりを見せてすぐに口を開く。




この前の体調不良が嘘のように元気な優太に私は安心しきっていた。






「遥斗に電話してくる」





今すぐ、今日花火するって伝えないと。


勢い良く起き上がった私に笑いながら携帯を渡してくれる彼。




受け取ってすぐさま電話をすると二つ返事でOKがでて、今夜することになった。








「凛、楽しみ?」

「もちろん。」








家族とはあまり思い出がない。

それは夏でも冬でも。







参観日だって働いていた母には来てもらえなかった。

再婚してからは余計に溝ができてしまったし、頼りにくくもなった。




妹にかかりきりで大変そうだったし。





入学式くらいはさすがに来てくれるかなって思ったけど、妹と重なってしまって結局終わった頃に顔を覗かせるだけ。







寂しくて辛かった。







ああ、もう辞めよう思い出すのは。

今が楽しいんだから、それでいいんだ。






それから直ぐに花火を買いに行って約束の河川敷に向かった。




張り切りすぎたのか少し、いやかなり早くついてしまったけど、もう遥斗は来ていた。





「二人とも早いじゃん」

「遥斗こそ」






まだ少し明るいのにね

なんだか笑えてくる。






遥斗私たちよりも前に来ていたみたいで、ロウソクやバケツの準備もしっかりしていてくれた。







「あ!遥斗も花火買ってる」

「ほんとだ、この量はやばいかも」








私たちもかなりの量の花火を買って持ってきたわけだけど、遥斗も同じくらい持ってきてたみたい。





絶対一日じゃ出来ないよ、この量は。






なんて考えてる私を置いてけぼりにして二人は花火を始めていた。

遥斗が花火を振り回して優太に怒られたりして、相変わらずうるさいけど仲のいい二人。



さすが、長い付き合いなだけある。






かれこれ二、三時間したけど一向に減らない花火たち。







笑いながら花火の袋を漁る優太。






「これ、絶対終わらないやつ」

「いいや、本気出せば終わるよ。ね、凛?」







だから、花火を振り回さないでよ。って怒るとヘラヘラと謝る遥斗。

絶対反省してないんだから。






「まあ!残ったら残ったで来年やればいいか」

「明日でもいいよ?」






優太の言葉にふざけて乗ってみると、2連チャンはキツイだろってデコピンを食らった。


遥斗はヒリヒリとするおでこを押さえる私なんてまるで目に写っていないかのように、花火って来年までもつんだっけ、なんてゴニョゴニョ言いながら新しい袋を開けている。