その日の練習を終えてサークルの人達とわかれると、優太は直ぐに夜ご飯の話を始めた。
いつもの事だから、はいはいと返事をしてスーパーへ寄る。
「遥斗が凛のご飯食べたいって言ってたけど絶対呼ばね」
「そういうこと言って、連れてきてあげればいいじゃない」
減るもんじゃないでしょ、ご飯くらいって言い返すと、ご飯くらいじゃないんだって怒られてしまった。
「遥斗呼んだら、絶対に先輩も大輝も来たがるだろ?」
そんな大人数のご飯は作る方も大変だ、なんて手伝ったこともないくせに言うから少し可笑しくなってしまった
「なんで笑ってんの」
「ごめんごめん」
「今日は俺も手伝う」
私の思ってることが分かったのか、やる気満々になる優太。
断っても無駄な気がするし、たまには手伝って欲しいなって思ってたからちょうどいい機会かな。
何してもらおうかな、包丁を握らせるのは気が進まないし。
お皿洗いじゃ、なんだか可哀想だよね。
「なんでもするから、なんでも言って?」
肩に顎を乗せて私の顔を伺う彼。
遥斗たちに比べて小柄だからか普段から可愛く見えてしまうところがあるけど、この上目遣いはどこで覚えたのか。
「じゃあ、これ洗ってくれる?」
「それだけ?」
人参とじゃがいもを洗うだけじゃやっぱりご不満なようで。
仕方がないから切る作業を渋々お願いした。
私の言葉に笑顔で頷く彼は、直ぐに隣に立って包丁を握った。
そう言えば、彼は私が来るまでは一人暮らしだったわけだし、すごくやる気もあるから。
なんて思っていたけど、おぼつかない。
人参が可哀想になるくらい強く握られてて、だけど優太の目は至って真剣。
そんな横顔を見つめながら、食器を用意しているときだった。
「うわっ」
後ろで聞こえた声に振り返ってみれば案の定、指を押さえている。
彼の手元に目をやれば、少しだけ左の指が切れている。
「もー、言わんこっちゃない。あとは私がやるからソファーにでも座ってて」
やけに聞き分けがいいのは指を切ったからだね。やっぱり切るのを任せるべきじゃなかった。
今度からは気持ちだけ有難く受け取ろう。
何分か経って、カレーもいい感じに仕上がった頃、何気なく優太に目を向ける。
もう出来るよって声をかけようとしたけど、さっき切った指を見てその言葉を飲み込んだ。
いや、飲み込んだと言うよりは別の言葉が出てきただけ。
「まだ、血止まってないの?」
「ん、あー見た目より深かったみたい。それよりもう出来た??」
「あ、すぐ出来るよ」
不思議に思ったけど、あまり気にしても仕方が無い。そう自分に言い聞かせた。