「優太、急がないと怒られるぞ?」



帰る準備をしていたら窓からひょこっと遥斗が顔を覗かせていた。


遥斗は優太の中学からの同級生でもあり、ダンスサークルのメンバーでもある人だ。





「ん行く。凛も見に来るよね」

「もちろん」




そう答えて優太の腕を掴むと、顔を顰めた彼。

そして腕をさするから驚いてしまって掴んでいた手を慌てて離す。



遥斗も驚いた顔をして優太を見ていた。





「ごめん、私そんなに強く掴んだつもり無かったんだけど。痛かった?」


「いや、平気だよ。驚かせてごめん」






しれーっと優太の袖をまくる遥斗。




暫くして急にまくるのをやめるから不思議に思って覗いてみるとそこには、

ダンスで鍛えている程よい筋肉のある腕にういた痛々しい痣があったのだ。






そこから目が離せない私と戸惑う遥斗。




今、私がちょっと掴んだだけなのに、痣ができるものなの?

そんな短時間で、あんな弱い力でこんなに痛々しく?



「そんなわけないじゃん。多分これは昨日か一昨日ぐらいに踊ってるときにどこかでぶつけたやつだから」




不安になって口を閉ざす私達を落ち着かせるかのように優太はそう言った。






「何だよ、優太。本気で焦ったじゃねーか。
びびらすなよ。凛も青ざめてんじゃん」




遥斗の言葉に頷きながらも私の胸は嫌な感じにざわついていた 。







ねぇ、優太。

今朝 、見たときはそんな痣あったっけ?





「ほら、遥斗も凛も早く行かないと先輩待たせてるんだから」

「う、うん」







このときから優太の体に影を落とすように
少しずつ異変が起こり始めていたなんて 。






誰も気づいてなかったよ 。

きっと優太自身だって。









「遥斗、振り覚えた?」

「ん、何となく」

「それ大丈夫なのかよ」






優太は 、何年も前からダンスをしていて素人の私から見ても凄く上手だと思う。






私は正直 、ダンスのことはよく分からないけど躍っているときの優太はすごくかっこいいんだ。






「遅くなりましたーすみません」







練習場所につくともうサークルの人たちは全員来ていてアップを終わらせていた。

全員と言ってもこのサークルは少人数で優太と遥斗を合わせて五人なんだけどね。




人気がないから少ないとかじゃなくて、入りたくても入れないってやつ。

大会に出るくらい本気でダンスしてる人達だから大抵の人は見学だけで終わってしまうらしい。





「遥斗、振り全然違うけど」

「えーどうだっけ」




二つ上の、陸先輩に怒られながらも楽しそうに踊る遥斗。

それを見てニコニコしている優太。





いつ見ても微笑ましい。