もう少しだけ、そばに居て


「随分、遅かったから心配したよ」




そう言って笑顔で出迎えてくれたのは私の大好きな優太。




弾んだ気持ちと少しの緊張が混ざったような変な気持ちだった。


そんな気持ちで、呼び鈴を押した私とは打って変わって優太は玄関のドアが勢いよく出てきた。







ひょいっと私の持っていた荷物を持ち上げて部屋の奥へと入っていく姿はとても大きく感じた。




「凛、入らないの?」

「今から行く!」





荷物を床に置きながら、玄関で突っ立っている私に声をかけた。







「優太、ちょっと来て。」







手招きすると、すぐに私の元に来てくれてた


ちょっと照れくさいけど最初くらいはね。









「今日から、お世話になります」







そう頭を下げてすぐに彼の反応を伺えば

クスクスと笑う優太が直ぐに目に映った







笑わないでよと少し不貞腐れあように言ってみれば分かった分かったと私をなだめるように頭を優しく撫でた。







「凛の変な緊張が移ったじゃん」





私の手をそっと掴むと部屋に招き入れてくれる優太がそう言ったけど

仕方がないんだ。








だって、今日から

大好きな優太との同居生活が始まるんだもん






「ところで、その大量の荷物には何が入ってるの?」

「あー、これはね」







ペアカップや付き合い始めた頃の写真、誕生日や記念日に貰ったプレゼント。





思い出があるもの全て持ってきてしまったのだ。





とはいっても、一人暮らしをしていたからほかの雑貨なんかはほとんど置いてきてしまったんだけど。







「急に、同居なんていいって言ってくれると思わなかった」




ぽつりと出た私の本音に少しだけ驚いた表情を見せた優太だったが直ぐにいつもの優しい笑顔に戻った。






「だって、凛の帰る場所はいつだって僕の隣だから。」





照れくさそうにそういう優太に温かい気持ちになった。





いつからか家に居場所がないと思い始めた私の唯一の帰る場所。





小さい頃に母が離婚して 、二人で何年か暮らしていたものの、五年前に母が再婚 。



父には連れ子がいたし、直ぐに母との子供も生まれた。


私の父になった人はとても優しい人だった。


母はすごく幸せそうで結婚してくれたことには感謝しているけど、私は馴染めずにいた 。




二人の妹が成長する度に、疎外感を感じてしまう自分が嫌になった。





大学生になって逃げるように家を出て一人暮らしを始めた私。




そんなときに出会ったのが優太だった。


大学生になって初めての講義で偶然、隣の席になってそれからよく話すようになったんだ。




明るくて優しくてノリが良い。だけど真面目なとこもある彼に私はすぐに惹かれた。




気がつけば付き合ってもう少しで3年 。






彼と一緒にいるときが一番幸せで安心できた。



私の一番安心できる場所はこれから先だってずっと、優太の隣しかない。









逃げるように家を出たと言ってもきちんと許可は取った。

一人暮らしがしたいと伝えた。




母は、凛も大きくなったからね

父は凛ちゃんしっかりしてるしいいんじゃないかなって




誰からも反対されることもなくすんなりと許可もおりた。






ベッドに寝転がっていると何度も何度も思い出される家族の声。


その度に私は、誰からも理解されてないって思っちゃうんだ。


本当は逃げたかったんじゃない、分かって欲しかっただけなのに。





「寂しい」






心に穴が空いてて、どんなにあいで満たされてもスルスルと抜け落ちていくみたいな感覚。





「凛、おいで」




その胸にぎゅっと顔を押し付ければぽんぽんと頭を撫でてくれる 。



大丈夫、一人じゃないよ
そう言われているみたいで安心できた。







私、やっぱり優太のことが好き。
これからずっと一緒にいたい。







いや、一緒にいることが当たり前だと思っていたんだ。