「帰らないよ」
当然のような口調で言う輪に顔を上げた。
私を見る丸いふたつの瞳は息を飲むほど澄んでいた。
「僕は帰らない。だって、光莉がひとりぼっちになっちゃうから」
「私はもう……この世にいないんだよ。どうせこの先もひとりでこの地に縛られているんだから」
「僕もひとりぼっちだから」
答えになっていない。
でも、どこかなつかしい瞳に少しだけ張っていた緊張が解けた気がした。
もしも地縛霊になったなら、この先何百年とここで苦しむことになるだろう。
だとしたら、最後にやさしい言葉をくれる人との時間を大切にしてもいいのかもしれない。
「輪くんって……変わってるね」
「よく兄ちゃんにも言われる。でも、人なんてみんな変わってると思う」
「私みたいなできそこないに構うと、きっと後悔するよ」
「しない。僕は霊感だけじゃなく、直観もすごいんだ。僕たちはきっといい友達になれるよ」
そう輪が言ったときのこと。