記憶はさらさらと手のひらから砂がこぼれるようになくなっていく。
今では未練解消の内容すらも思い出せなくなっていた。
もうすぐ地縛霊になってしまうのだろう。
この灰色の世界に、生きている人間を巻きこんではいけない。
「――もう帰ったほうがいいよ」
静かな言葉が口から漏れていた。
冷たく聞こえたかもしれない。
「私といると、いつ化け物になるかわからないでしょう? それに、これ以上思い出したくないの」
取り繕うように言葉を重ねてもなお、輪はまっすぐに私を見ている。
どうして私に構うの?
珍しいものを見たから?
ただ単に興味があるから?
言葉にしてはいけない気持ちを飲みこめば、絡みつく糸はギュッと体を締めつけてくる。
こうして生まれた不安定な感情はガチガチと歯が鳴るほどの寒さを呼ぶ。
自分をコントロールできない私は、もう化け物だ。
この苦しみに身を任せてしまえば、ラクになれるかもしれない……。
人が憎い。
人を呪いたい。
ひとりになりたくない。
複雑な感情に叫び出しそう。