あのときの感覚を思い出すと身震いするほどに怖い。

「だから、誰にも会わない場所で死にたかったの」

山道を必死で走ってこの場所に辿りついた夜を、昨日のことのように覚えている。

どうして私は死んでしまったの?

みんな私のことを忘れてしまうの?

心に広がった悲しみはやがてどす黒い感情に成長していったんだ。
誰にも会わない 場所で静かに消えたかった。

「つらかったね」

輪の短い言葉が、なぜか胸に染みた。
あたたかい言葉なんて久しぶりだった。

「ううん、バカなだけ。ここだっていつかは住宅地になってたくさんの人が住み出すのに。もっと遠くへ行けばよかったんだよ」

「そんなことない。光莉はがんばったよ」

真冬のように寒いのに、輪の周りだけあたたかい空気を感じるのは気のせいだろうか。

「その黒い糸はなに? どうしてこんなのに縛られてるの?」

輪は、私の体の周りにある黒い糸を指さした。

「私をこの地に縛る糸なんだって。はじめは数本だったのにどんどん増えているの。全身が包みこまれたとき、私は地縛霊になってしまう」