あどけない瞳で尋ねる輪の言葉にハッと我に返る。

「ああ……そっか」

久しぶりの会話に、自分がまだ生きているような気になってしまっていた。
私はも うこの世にはいないんだ。
改めて知ることで余計に苦しくなった気がする。

「私は……事故で亡くなったと思う」

「思う?」

輪は眉を片方だけひそめる。

「正直に言うと、詳しくは思い出せないの。ただ、すごく苦しかったのは覚えてる」

これまでも、人生最後の瞬間を思い出そうと試みたことはある。
だけど、思い出せるのは息ができないほどの苦しみだけだった。
考えればすぐに自分の葬式の場面を思い出し、余計に悲しくなることの繰りかえし。

「どうしてここにいるの? ここで亡くなったわけじゃないよね?」

キョロキョロとあたりを見回す輪に、
「逃げてきたの」
と素直に言えば、次の言葉がもう口からこぼれている。

「うまく言えないんだけどね。人をうらやむ……みたいな気持ちが大きくなったの。 それがだんだんと、人間を憎む感情に変わるのがわかった」