少しずつ気持ちが言葉になっている感覚がなつかしい。

昔を回想しようとする私を断ち切るように、輪は目の前でポンと手を打った。

「じゃあ僕と友達になってよ。うん、それがいい。そうしようよ」

ひとりで納得する輪に呆れた顔になってしまうけれど、さっきまで暗かった世界が 少し明るくなった気がした。
同時に絡みついている黒い糸が少し減ったようにも見える。

「友達って、お互いになにも知らないのに?」

「友達を作るのにルールはいらないよ」

名言ぽくそう言った輪が、自分の胸に右手を当てた。

「最近この町に引っ越してきたんだ。だから光莉の高校にも転入してきたばかりでさ。これからよろしくね」

貴族の挨拶みたいな格好で軽く頭を下げる輪に、私は眉をひそめてしまう。

「え、転校生なの? でも、今ってもう夏だよね」

「七月になったばかり。ほんっと、この時期に引っ越すほど不幸なことはないよ。友達もいないなかで二週間後には夏休みに突入するんだから」

下唇を尖らせ嘆く輪が、
「まあ僕のせいだから仕方ないんだけどね」
とポツリと言った。