昼休みになり、僕、悠、蓮、瑛太の4人は食堂へ行く、悠と蓮は日替わり定食を頼み、瑛太は肉うどんを頼んでいた。僕は弁当を持って、4つ空席のある場所へ座る。場所取りだ。


 瑛太が肉うどんをトレイに乗せて、僕の隣に座った。悠と蓮は日替わり定食のトレイを持って、僕の前の席に座る。僕は覚悟を決めて、弁当を開けると、弁当のご飯の上に錦糸卵でハートが作られて、おかずがファンシーなことになっている。子供達が喜ぶだろうキャラ弁みたいだ。瑞希姉ちゃん、時間かかったんだろうな・・・・・・無駄な所に力を使っているような気もする。


 僕は錦糸卵のハートを箸で形をなくして、弁当とおかずを食べていく。おかずの味は絶品だ。さすが瑞希姉ちゃん。お弁当、ありがとうございます。


「あ~来週から実力テストか。サボったりすると赤点にされるかもしれないし。休んでも、違う日にテスト受けないといけないし、マジ地獄~」


 蓮が日替わり定食を箸で突いて、来週の実力テストについて嘆いている。


「蓮、そんな逃げることばかり考えていてどうする。男だろう。潔く勉強を頑張るしかないだろう」


「僕は、いつも勉強だけは、それなりに点数が良いので、全く気にしていませんよ」


 悠と瑛太がそれぞれに蓮に話しかける。


「悠だって、いつも点数、悪い派じゃないか。俺より少し良い点数なだけじゃん。瑛太は黙れ。今はお前の言い方、マジでムカつく。蒼大はどうなんだよ。」


 蓮はご機嫌が斜めのようだ。


「僕もテストはいつも平均点ぐらいかな。これからの1週間は夜にでも、瑞希姉ちゃんに教えてもらおうと思ってる。蓮も僕の家に来るかい。瑞希姉ちゃんも蓮なら一緒に勉強を教えてくれると思うよ」


「ウヘ~。それは勘弁して。瑞希姉ちゃんから勉強を教わる前に、説教が待ってるわ。蒼大、そんな怖ろしい提案してくんな」


 そうかな。瑞希姉ちゃんの勉強の教え方って、親切で、丁寧で、解りやすいんだけどな。


 そういえば、咲良に勉強を教えてって言われてるんだよな。悠や瑛太に相談してもいいけど、蓮にいうと、絶対に「俺も一緒に勉強する」って言うよな。そして勉強しなくて、咲良の邪魔ばかりしそうだ。蓮には相談できないな。


 教室へ帰ってからでも、悠と瑛太にこっそりと相談しよう。


 悠、蓮、瑛太も食事を終えた。僕も瑞希姉ちゃんからの美味しいお弁当を残さず食べた。本当にありがとう。瑞希姉ちゃん。


 3人はトレイを返却口へ返しに行く。僕は席から立って、食堂の入り口のところで3人を待つ。4人揃ったところで、自分達の教室へ戻った。自分の席へ向かうと、僕の席で、咲良と芽衣と莉子が仲良さそうにお弁当を広げていた。


 僕は邪魔してはいけないと思って、机の中へ弁当を入れて、悠の席へ向かおうと歩き出すと、制服の裾を咲良に掴まれた。


「何?弁当を食べている最中なんでしょ。だから邪魔者は離れるよ」


 咲良はお弁当を口に頬張ったまま、僕に話しかける。きちんと口の中のモノがなくなってから、話そうな。


「今日、蒼大が、私に勉強を教えてくれるって言ってたじゃん。そのことを皆で話してたんだけどさ」


「私は1人で勉強したほうが、はかどるタイプなので遠慮しておきます」


「なんで私が蒼大に勉強を教えてもらわないといけないのよ。ちょっと点数がいいからって・・・・・・フン」


 なぜか、芽衣にはやんわりと断られ、なぜか莉子の機嫌が斜めになった。これは俺が考えたことじゃないからね。咲良が言い出したことだよ。みんな誤解してないかな。


「別段、それでも構わないよ。これは僕が思いついたことじゃないからね。咲良が勉強を教えてほしいって言ったから、良いよって答えただけだから」


「あれー、咲良、さっきと話が違うんですけど。ん、わかった。私は邪魔をしないから頑張って、勉強を教えてもらってね」


 芽衣が優しい瞳で咲良を見つめて、頭をよしよしと撫でる。咲良を見ると顔がユデダコだ。


「私にはどっちが言い出したか、なんて関係ないわ。実力もわからない蒼大に勉強を教えてもらうなんて、あり得ないし、私は勉強会なんてしないからね」


 莉子はなぜ、そこまで僕のことを嫌うんだよ。それとも誰にでも、そういう態度なのかな。


 耳まで赤くなった咲良が体をモジモジしている。


「勉強する場所で悩んでるの。学校で勉強するのも、放課後残っている皆に見られて恥ずかしいし、それに教材も少ないし、かと言って、蒼大の家は男子の1人暮らしでしょ。本当は友達になって、間もない男子を私の家に呼ぶのは、はしたない女子と思われちゃうから嫌なんだけど、蒼大以外は家に男子を呼んだことないからね。よかったら蒼大、私の家で勉強を教えてくれないかな。お願い」


 僕はどこでもいいけど、女子なら、男子を家に呼ぶことは勇気がいるよね。それも友達になって間もないことだし、余計に勇気が必要だろうと思う。それでもお願いされてるんだ。これは引き受けないと仕方ないね。


「いいよ引き受けた。あんまり夜遅くなる前に帰るようにするよ。それでいいかな?」


「うん」


 咲良は少し涙目でにっこりと笑った。俺のことで相当、悩んでくれたんだな。悪いことをしたな。


「それでね。このことは悠、蓮、瑛太には絶対に内緒にしてほしいの。特に蓮に知られるのはイヤ」


 その気持ちはわかる。僕も協力しよう。


「わかった。じゃあ、放課後、すぐに教室を出て、校門の横で待ち合わせしようか。そのほうが安全でしょ」


「そうしてくれると助かる」


 それから少し経って、昼休みのチャイムが鳴ったので、自分の席へ帰ると、咲良達のお弁当会は終わっていた。


 午後の授業も、咲良と机を並べて授業だ。


 やっぱり、咲良は授業中にわからないところが出てくるらしい。ペン先でわからない点を差して、僕に小さな声で聞いてくる。僕はその度に、親切、丁寧を心がけて、咲良に説明する。咲良は理解できると、僕のほうを向いて、にっこりと笑ってくれる。この笑顔を見ると、教えて良かったと思う。


 あっという間に放課後を迎えた。僕は悠達に捕まらないように、さっと片付けをして、教室を出る。咲良も誰にも気づかれないように、トイレに行く振りをして教室を出て行った。


 僕が校門に着くと、先に咲良が待っていた。体をモジモジとさせている。


「他の生徒が帰りださないうちに、さっさとここを離れよう」


 僕と咲良は足早に校門から離れて、少しの間、無言で横に並んで歩く。校門から離れた所から、ゆっくりと歩き始めた。


「蓮の奴、咲良の家に行ったって聞いたら、羨ましがるだろうな。蓮は咲良のファンだからな」


「私は、それが嫌なのよ。私は蓮にまとわりつかれて、迷惑してるんだから」


 蓮の奴、そうとう咲良に絡んだんだな。蓮も手加減すればいいのに。どうせ、からかうと面白いから。誘いまくったに決まってる。


 大通りを外れて、2人で路地を歩いていく。僕と咲良は横に並んで歩いていく。


「咲良って、小・中学校って、悠達の小・中学校と別だよね。家、遠いんじゃないの?」


「そうでもないんだ。私が高校に入学した時に、近くに引っ越してきたから、もうすぐ見えてくるよ」


 なるほど、そういうこともあるのか。子供を持つと親も大変なんだな。


「この間スィーツ店でも聞いたけど・・・・・・なんで蒼大はこの街から、お父さんと一緒に出ていったの。なぜ、お母さんもこの街から出て行ったのかな?」


「僕も小さかったから、その辺りの原因はわからないんだ。以前、父さんと住んでいた街には、父さんの妹夫婦も住んでいたから、父さんはそれを頼って街を出たのかもしれない。小さい僕を抱えていたから・・・・・・母さんがこの街を出た理由は全くわからないし、両親が離婚した理由も、小さかった僕には全然、わからない」


「そっか、小さい頃の話だもんね。ご両親も小さい子供には聞かせたくないよね。気まずいことを聞いてゴメンね」


「いいよ。別に過去のことだからね。気にしてないよ」


 ふと、咲良の足が止まった。そして、新築のような大きな家を、にっこり笑って、指差す。


「ここが私の家。蒼大が男子で初めてのお客様なんだから」


「それは光栄です。粗相がないようにしなくちゃね」


 咲良が家の門を開けて、玄関へ向かって歩いていく。そして玄関の鍵を回して、玄関を開けて、僕を手招きする。僕は門を通り抜けて、玄関へ向かう。玄関の中へ咲良が入っていく。僕も後ろへ続く。玄関を閉めて、靴を脱ぐと、咲良は「ただいま~」と家の中へ声をかける。僕も靴を脱いで、咲良の横に立つ。


 すると「おかえりなさ~い」と小学生くらいの女の子が咲良に抱き着いてきた。咲良は嬉しそうに抱っこする。


「これ、私の妹の咲よ。このお兄ちゃんは蒼大っていうの。お姉ちゃんのお友達よ。咲も挨拶してね」


「私、咲、7歳。蒼お兄ちゃん、よろしくね」


 頬がプリンプリンしていて、肌がツルツルで、まるで天使のような笑顔だ。僕は咲ちゃんの小さい手を握って挨拶する。


「そうだよ。僕が蒼大だよ。よろしくね。咲ちゃん」


 廊下で咲ちゃんと挨拶をしていると、奥の部屋が開いて、少しぽっちゃりとした、咲良似の女性が出てきた。


「あら、咲良が男の子を遊びに連れてくるなんて、初めてのことね。ボーイフレンドかな。私は咲良の母親で堂本椿というの。はじめまして。後でケーキとジュースを持っていくわね。今日はの夕食は豪華にしなきゃ」


「ママ、そんなに気合入れる必要ないから。蒼大には勉強を教えてもらうために、家に来てもらったの。だから、これから勉強するから邪魔しないでね。それじゃあ、私は自分の部屋へ行って、着替えてくるから、蒼大はリビングにでもいて」


「蒼大くんっていうのね。リビングはこっちよ。入ってきて」


 僕は椿おばさんの後ろについて、リビングへ入っていく。なぜか咲ちゃんは僕と手を繋いでいる。リビングのソファへ座ると咲ちゃんがソファの上を歩て、僕の膝の上に座った。そのヨチヨチした歩き方が、また可愛い。


 僕の膝の上に座った、咲ちゃんの両手を持って、僕は色々なポーズをさせて遊ぶ。咲ちゃんも楽しそうにしている。とても可愛い。


 学校へ咲ちゃんを連れていったら、1日で人気者になるだろうな。特に女子から可愛がられそうだ。


 僕が咲ちゃんと遊んでいると、リビングのドアが開いて、咲良が着替えて入ってきた。白のレースのシャツに花柄のスカートを履いている。見ているだけで涼やかな服装だ。


「あら、勉強を教えてもらうだけなら、いつもの部屋着でよかったんじゃないの。今日はめかしこんでいるわね。蒼大くんが来ると、これほど変わるものかしら。パパにも報告しなくちゃ~」


「本当に蒼大とはそんな間柄じゃないし、パパに言ったら、ママがへそくりしている場所、パパにバラすからね」


 なぜ、親子で言い合いが勃発してるんだよ。非常に居にくいんですけど・・・・・・


「蒼大、私の部屋へ行こう。咲はここでママと遊んでいてね。お姉ちゃん達は勉強してくるから」


 僕は咲ちゃんと手を繋いでお別れを言って、手を放して、リビングを出る。2階にある咲良の部屋へ向かった。


 高校生の女子の部屋って、瑞希姉ちゃんの部屋で経験済だけど・・・・・・咲良の部屋と思うと緊張するな。


 咲良の部屋へ入ると、女子高生を感じさせる部屋だった。とにかくぬいぐるみの数が多い。ベッドの上にいくつぬいぐるみがあるんだよ。棚の上にも、机の上にもぬいぐるみが飾られている。


 カーテンは白のレースのカーテンと、薄黄緑色のカーテンがかけられていた。ベッドカバーは小さい花がいっぱいだった。


 机の上に、今日、忘れたプリントのファイルが整理されて置かれている。鞄の中へ入れるのを忘れたんだな。


 咲良が折りたたみ椅子を持ってきて、机の横に置いてくれる。


「ちょっと、連絡するところがあるから、ここで連絡するね」


 僕はポケットからスマホを取り出すと瑞希姉ちゃんへ連絡した。すぐに瑞希姉ちゃんが出る。


《蒼ちゃん、電話してくなんて珍しいわね。一体、どうしたの?》


《友達の家で勉強会をすることになったんだ。だから帰るのが少し遅くなる》


《フ~ン。悠、蓮、瑛太も一緒なの?》


《違うよ、クラスの友達》


 瑞希姉ちゃんと話している間に、背中に冷や汗が流れてくる。


《で・・・・・・その勉強会をする女の子は誰なの?》


 なぜ、バレた~。バレるようなことは言ってないよ。どれだけ勘がいいんだよ。


《・・・・・・堂本咲良さんの家で勉強会をしています・・・・・・》


《わかったわ。勉強会なら仕方ないわね。早く帰ってきてね。夕飯が冷えちゃうから・・・・・・それと堂本さんに代わってくれる~》


 それはいくらなんでも瑞希姉ちゃん、入り込み過ぎてるでしょう。


「咲良、瑞希姉ちゃんが、咲良と話をしたいって」


「え、瑞希先輩が、嬉しい」


 咲良が嬉しそうに、にっこり笑って俺のスマホに耳を当てる。


「はい。はい。そんなことないです。蒼大に勉強を教えてもらうように頼んだのは私ですから。全然、お邪魔じゃないです~。はい。はい。夜になったら蒼大を帰しますね。瑞希先輩と話せて感激です。では失礼します」


「瑞希先輩に、蒼大と友達になってくれてありがとうって言われちゃった。蒼大に夜になったら帰るように言ってって。夜遅くまで女子の部屋にいるのは失礼だからって、瑞希先輩に気遣ってもらちゃった。感激」


 それにしても咲良の瑞希姉ちゃんファンは凄いな。瑞希姉ちゃんは夕飯を気にしていただけだと思うけど。


 僕は折りたたみ椅子に座って、筆記用具と教科書とノートをだす。咲良は自分の机に座って勉強の用意をする。2人で机に座ると意外と狭い。咲良の顔が間近に見える。心臓がドキドキする。緊張するな。


 勉強をしていると、咲良がわからない所を聞いてくる。僕は咲良が理解するまで解説する。そんな感じで勉強は進んでいった。あっという間に、時間は夜の7時になっていた。


 ずいぶん、咲良の勉強もはかどったと思う。この調子で勉強すれば、実力テストでも平均点くらいは取れるだろう。


 僕は帰る時間になったので、咲良の部屋から出て玄関へ行く。咲良もにっこりと笑っている。


「今日は本当にありがとう。私、こんなに勉強が理解できたの、初めてかもしれない。蒼大はやっぱり勉強を教えるの、上手だよ。今日は助かりました~」


 咲ちゃんがリビングから出てきて、僕に飛びついてくる。僕もついつい咲ちゃんと抱き上げる。


「蒼お兄ちゃん、もう帰っちゃうの。私、蒼お兄ちゃんに遊んでもらいたかった」


「ゴメンね。もう帰る時間なんだ。こんど来た時には、いっぱい咲ちゃんと遊ぼうね」


 咲ちゃんは向日葵のように笑う。とても可愛い。


「蒼大も咲に懐かれたもんね。それもあんな短時間で。そういえば咲は蒼大のこと、蒼って呼ぶのね。私も蒼って呼んでもいいかな」


「ああいいよ。瑞希姉ちゃんも蒼ちゃんって呼ぶから」


「じゃあ、蒼、また、明日ね。今日は遅くまでありがとう。本当は送っていきたいんだけど、これから外出ってなるとママがうるさいから、ゴメンね」


 そんなことは気にしなくていいよ。路地には外灯しかないし、夜に1人で女子を歩かせるわけにいかないからな。


 僕は玄関を開けて、咲ちゃんと咲良に手を振って、挨拶をする。リビングから椿おばさんが出てきて、手を振ってくれた。僕は玄関を出て、門を通り過ぎて、路地を歩く。


 家では瑞希姉ちゃんが夕飯の用意をして待ってくれている。これ以上、遅くなると心配させちゃうよ。


 僕はできるだけ急いで路地を走って、瑞希姉ちゃんの待っている家に向かった。