瑞枝おばさんがテーブルに座っている前で、リビングで僕は明日香に正座をさせられていた。
「蒼お兄ちゃんは瑞希お姉ちゃんのことをどう思ってんの?」
「昔から世話になってる隣の幼馴染のお姉さんだよ。いつも瑞希姉ちゃんには世話になってると思ってる」
「そういう意味じゃなくて、瑞希お姉ちゃんのことは好きなの。LOVEなの?」
「・・・・・・」
それがはっきりとわかってるなら、僕も妹の明日香に変な質問なんてしてないよ。わからないから悩んでるんじゃないか。
「明日香は瑞希姉ちゃんのことをどう思ってるんだよ?」
今日の朝も「僕と2人きりで暮らしたい」とか「瑞希お姉ちゃんがいるのは私の計画と違う」とか言っていたけど、瑞希姉ちゃんのことが嫌いなのか?
「私は瑞希お姉ちゃんのことが好きよ。いっぱい可愛がってくれるし、優しいし、本当のお姉さんみたいだなって思ってる」
だったら、朝の件も目を瞑ってくれてもいいじゃないか。
「でも瑞希お姉ちゃんはやっぱり隣の家のお姉ちゃんなの。本当のお姉ちゃんじゃないの。いくら家族ぐるみの付き合いだからといって、本当のお姉ちゃんにはなれないの。いきなり本当のお姉ちゃんのように思ってと言われても私も困るわよ」
僕にはよくわからないな。瑞希姉ちゃんは瑞希姉ちゃんだからな。僕にとっては特別なお姉ちゃんだから。
「同じ女性として言わせてもらうけど、今の蒼お兄ちゃんの瑞希姉ちゃんに対する態度は失礼よ」
「・・・・・・」
「あれだけ甘えさせてもらって、瑞希お姉ちゃんが蒼お兄ちゃんのことを好き。LOVEだってことに気付いてないないんて、瑞希お姉ちゃんが可哀そう過ぎるよ」
え、瑞希姉ちゃんが僕のことをLOVEなのか。そういば大好きや、愛してるって言われ続けている気がする。あれは瑞希姉ちゃんの恋心なのか。僕は瑞希姉ちゃんが僕のことを弟として見ていて、大好き、愛してるって言ってるんだと思ってた。明日香の目からは違うらしい。
そう言えば美咲姉ちゃんからも瑞希姉ちゃんは僕のことを1人の男子として愛してるっていってたけど、それは僕のことを弟として見ていなくて、1人の対等な男子として愛してるって意味だったのか。
美咲姉ちゃんも明日香も同じ意味で言ってるんだな。
僕はお姉ちゃんというものに憧れていたのかもしれない。母さんがいなくなった分、誰かに甘えたくて、誰かに優しくされたくて、誰かにもたれかかりたくて、誰かに抱きしめられたくて、僕はそれをお姉ちゃんという偶像に憧れていたのかもしれない。その偶像を現実に置き換えて、瑞希姉ちゃんのことを見ていたのかもしれない。
だから、瑞希姉ちゃんを1人の対等な女性として見ることができなかったんだ。
そう考えれば、美咲姉ちゃんの言っていることも、明日香が言っていることも理解ができる。僕は瑞希姉ちゃんに酷いことをしてきたんだな。
「僕なりに今、頭の中を整理してみた。明日香のいうとおり、瑞希姉ちゃんに失礼なことをしてきたのかもしれない。僕は瑞希姉ちゃんに甘えすぎていたのかもしれないね。もう少し距離を取ったほうがいいのかもしれない」
瑞枝おばさんが、歩いてきてリビングのソファに座った。
「それは違うわよ。蒼ちゃん。瑞希はね。蒼ちゃんの傍にいたいの。蒼ちゃんといつも一緒に笑顔でいたいの。蒼ちゃんと一緒にいることが瑞希の幸せなの。今になって距離なんてとられたら、瑞希は悲しみで発狂しちゃうわよ」
「でも、中途半端な僕だっったら、余計に瑞希姉ちゃんに失礼なことをしちゃってるんじゃないですか?」
瑞枝おばさんは首をゆっくりと横に振る。
「それは違うわよ。蒼ちゃんはきっちり瑞希のことを愛しているし、恋しているわ。そのことに自分で気づいていないだけよ。だから明日香ちゃんも、そのことをわかりなさいって言ってるの」
「・・・・・・」
「あなた達はあまりにも相性が良すぎて、仲が良すぎて、蒼ちゃんがわからないだけなのよ」
「蒼お兄ちゃんって、瑞希お姉ちゃんと始終、抱き合ってるから、抱き合いたいドキドキ感がないのよ」
明日香が呆れたふうに言う。
「いつも一緒にいるから、会いたいドキドキ感もないのよ。だから恋をして、悶絶することがないんだわ」
「・・・・・・」
瑞枝おばさんがため息をつく。
「明日香ちゃん、この2人は特別なの。だから、このまま見守ってあげるのが1番だったのに、私達、夫婦はそう思って見守ってきたのに、明日香ちゃんはまだまだ若いわね」
明日香は瑞枝おばさんからそう言われるとシュンとした顔になってクッションに顔を埋める。
「ここまで話したら、しかたないわね。もう少し、話をすすめましょうか」
瑞枝おばさんが優しく微笑む。
「前に瑞希が風邪で休んだ時、蒼ちゃんは学校でどうだった授業に集中できたかしら?」
それは心配でならなかった。早退してでも駆けつけたかった。
「瑞希は今年、高校3年だから、来年は大学生ね。都会の大学に行くとなったら、蒼ちゃんと離ればなれになるわ。蒼ちゃんはそれを考えた時、どう思ったかしら」
一年も会わないなんて苦しいと思った。都会に瑞希姉ちゃんが行ってしまうと思うと、一人になって寂しいし、怖いと思った。心に穴が開いたようになって、普段の生活もできなくなるかもしれないと思った。
「いつも蒼ちゃんは瑞希姉ちゃんと呼んでいるけど、「瑞希」と心の中であの子に話しかけてみて。どう感じるかしら」
とても恥ずかしい。それを考えただけで体温が上がる。顔が熱くなるのがわかる。今、真っ赤になっているだろう。本人に「瑞希」なんて言えないよ。恥ずかしくて体が震える。
「蒼ちゃんは「瑞希」を手放したい。「瑞希」と距離を取りたい?」
手放したくない。離れたくない。一緒にいてほしい。いつも会いたい。いつも僕を見ていてほしい。
「蒼ちゃんは立派に瑞希に惚れてるの。恋してるの。これでわかったかしら」
僕が瑞希姉ちゃんに恋をしてる・・・・・・そんな・・・・・・全く気付かなかった。
瑞枝おばさんに言われると、色々な兆候はあったような気がする。でもわからなかった。
「明日香、もし、僕と瑞希姉ちゃんがお互いに恋をしていたら、お前はどうするつもりだ?」
「私は蒼お兄ちゃんと暮らすのを諦めるわ。雅之おじさんに言って、瑞枝おばさんの許可を得て、私はこの家で暮らしたい。だって2人の邪魔はしたくないもの」
「そうね。私も喜んで明日香ちゃんを迎え入れるわ。だって将来、私達の義理の娘になるんだもの」
それは少し気が早すぎませんか。
「後、瑞希にはこの家を出てもらいます。私達も蒼ちゃんと瑞希の邪魔をしたくないもの。それに早く孫の顔も見たいし」
だから、なぜ、そんなに気が早いんですか。ちょっと待ってください。そこまでの心の準備がありません。
「私も、父さんも、蒼ちゃんになら、瑞希をお嫁さんにもらってほしいとおもってるの。だから、今から準備をしておかないといけないわ。だから蒼ちゃんと瑞希には同棲をしてもらいます」
はぁ、雅之おじさんも、瑞枝おばさんも飛ばし過ぎだよ。
「新しい娘として明日香ちゃんが来てくれたんだし、丁度いいわね」
何が丁度いいんんですか。
ここは僕がまだ瑞希姉ちゃんのことを恋してるかどうかわからないと答えておいたほうが良さそうだ。
「あの~、まだ僕はお子様で、正直、瑞希姉ちゃんに恋してるかどうかわかりません」
「蒼お兄ちゃん、セリフが棒読みになってるわよ。もう、自分の心がわかったんでしょう。正直になりなさいよ」
正直になったら、同棲が待ってるんだよ。結婚も間近に迫ってるんだよ。ちょっと話が飛び過ぎるよ
「まだ、瑞希姉ちゃんと、付き合っている感覚がないわけで・・・・・・」
「今まであんなにイチャイチャしていて、何を言ってんのよ。十分に付き合ってるわよ。観念しなさい。蒼お兄ちゃん」
瑞枝おばさんが優しい微笑みを浮かべているが、目が笑っていない。マジの目だ。
「もう2人共、自分の心がわかってるんだから、今まで通りに付き合っていけばいいだけでしょう。後は慣れていくものよ。結婚したら慣れるもんなんだから」
「瑞枝おばさん、ちょっと時間をください。まだ実感がわかないんです。ごめんなさい」
本当に付き合ってる自覚がないんだからしょうがない。
「わかったわ。そこまでいうなら、時間をあげます。その間に付き合ってる実感を持ちなさい」
「瑞希お姉ちゃんと蒼お兄ちゃんにはドキドキ感がないから、付き合ってる感がないのよ」
明日香、これ以上、僕を責めないでくれ。さすがに精神的にクタクタになってきたよ。
「明日香ちゃんのいうことも尤もね。だから明日から瑞希と蒼ちゃんには同棲してもらいます」
はぁ、同棲、僕達、まだ高校生なんですけど・・・・・・
その時、インターホンの音が鳴って、瑞希姉ちゃんが帰ってきた。最悪のタイミングだ。瑞希姉ちゃんがリビングへ入ってくる。リビングで正座して、冷や汗をかいている僕を見て、瑞希姉ちゃんが不思議な顔をしている。
瑞枝おばさんがニコニコ笑って、瑞希姉ちゃんに告げる。
「明日香ちゃんが決めてくれたんだけど、明日香ちゃんはこれからもこの家で暮らしてくれることになったの。お父さんと相談して、あのアパートは引き払うわ。正式に私達の家で明日香ちゃんを引き取ります」
瑞希姉ちゃんはそれを聞いて満面の笑みになった。
「よかったわ。どうなるかと心配してたんだけど。この家で明日香ちゃんも暮らしてくれるのね。これからは楽しくなるわ。私も応援するから頑張ろうね。明日香ちゃん」
瑞希姉ちゃんは無邪気に喜んでいる。
しかし、瑞枝おばさんの話はこれで終わりではなかった。
「明日香ちゃんがこの家の一員になったから、定員オーバーになっちゃったの。だから瑞希は引っ越しね。蒼ちゃんの家に空室があったはずよね。そこをこれから瑞希の部屋にすればいいわ。これからは瑞希は蒼ちゃんの家で暮らしなさい」
瑞希姉ちゃんの顔が引きつっている。そしてゆっくりと首を回して僕を見る。
その目は、
”これはどういう展開で、こんな話になったのかしら?蒼ちゃん?”
と問いかけてくる。
僕は首を激しく横に振った。
”僕のせいじゃない。全部、瑞枝おばさんが考えた”
僕は一生懸命に視線を送った。
瑞枝おばさんの発案は雅之おじさんに了承されて、僕と瑞希姉ちゃんが学校に黙って、隠れて同棲することになった。
___________________________________
◇第一部 転校編の完結となります。
第2部同棲編、第3部恋人編まで全完結しています。
今回はスターツ賞投稿のため第一部までとさせていただきました。何卒、よろしくお願いいたします。
「蒼お兄ちゃんは瑞希お姉ちゃんのことをどう思ってんの?」
「昔から世話になってる隣の幼馴染のお姉さんだよ。いつも瑞希姉ちゃんには世話になってると思ってる」
「そういう意味じゃなくて、瑞希お姉ちゃんのことは好きなの。LOVEなの?」
「・・・・・・」
それがはっきりとわかってるなら、僕も妹の明日香に変な質問なんてしてないよ。わからないから悩んでるんじゃないか。
「明日香は瑞希姉ちゃんのことをどう思ってるんだよ?」
今日の朝も「僕と2人きりで暮らしたい」とか「瑞希お姉ちゃんがいるのは私の計画と違う」とか言っていたけど、瑞希姉ちゃんのことが嫌いなのか?
「私は瑞希お姉ちゃんのことが好きよ。いっぱい可愛がってくれるし、優しいし、本当のお姉さんみたいだなって思ってる」
だったら、朝の件も目を瞑ってくれてもいいじゃないか。
「でも瑞希お姉ちゃんはやっぱり隣の家のお姉ちゃんなの。本当のお姉ちゃんじゃないの。いくら家族ぐるみの付き合いだからといって、本当のお姉ちゃんにはなれないの。いきなり本当のお姉ちゃんのように思ってと言われても私も困るわよ」
僕にはよくわからないな。瑞希姉ちゃんは瑞希姉ちゃんだからな。僕にとっては特別なお姉ちゃんだから。
「同じ女性として言わせてもらうけど、今の蒼お兄ちゃんの瑞希姉ちゃんに対する態度は失礼よ」
「・・・・・・」
「あれだけ甘えさせてもらって、瑞希お姉ちゃんが蒼お兄ちゃんのことを好き。LOVEだってことに気付いてないないんて、瑞希お姉ちゃんが可哀そう過ぎるよ」
え、瑞希姉ちゃんが僕のことをLOVEなのか。そういば大好きや、愛してるって言われ続けている気がする。あれは瑞希姉ちゃんの恋心なのか。僕は瑞希姉ちゃんが僕のことを弟として見ていて、大好き、愛してるって言ってるんだと思ってた。明日香の目からは違うらしい。
そう言えば美咲姉ちゃんからも瑞希姉ちゃんは僕のことを1人の男子として愛してるっていってたけど、それは僕のことを弟として見ていなくて、1人の対等な男子として愛してるって意味だったのか。
美咲姉ちゃんも明日香も同じ意味で言ってるんだな。
僕はお姉ちゃんというものに憧れていたのかもしれない。母さんがいなくなった分、誰かに甘えたくて、誰かに優しくされたくて、誰かにもたれかかりたくて、誰かに抱きしめられたくて、僕はそれをお姉ちゃんという偶像に憧れていたのかもしれない。その偶像を現実に置き換えて、瑞希姉ちゃんのことを見ていたのかもしれない。
だから、瑞希姉ちゃんを1人の対等な女性として見ることができなかったんだ。
そう考えれば、美咲姉ちゃんの言っていることも、明日香が言っていることも理解ができる。僕は瑞希姉ちゃんに酷いことをしてきたんだな。
「僕なりに今、頭の中を整理してみた。明日香のいうとおり、瑞希姉ちゃんに失礼なことをしてきたのかもしれない。僕は瑞希姉ちゃんに甘えすぎていたのかもしれないね。もう少し距離を取ったほうがいいのかもしれない」
瑞枝おばさんが、歩いてきてリビングのソファに座った。
「それは違うわよ。蒼ちゃん。瑞希はね。蒼ちゃんの傍にいたいの。蒼ちゃんといつも一緒に笑顔でいたいの。蒼ちゃんと一緒にいることが瑞希の幸せなの。今になって距離なんてとられたら、瑞希は悲しみで発狂しちゃうわよ」
「でも、中途半端な僕だっったら、余計に瑞希姉ちゃんに失礼なことをしちゃってるんじゃないですか?」
瑞枝おばさんは首をゆっくりと横に振る。
「それは違うわよ。蒼ちゃんはきっちり瑞希のことを愛しているし、恋しているわ。そのことに自分で気づいていないだけよ。だから明日香ちゃんも、そのことをわかりなさいって言ってるの」
「・・・・・・」
「あなた達はあまりにも相性が良すぎて、仲が良すぎて、蒼ちゃんがわからないだけなのよ」
「蒼お兄ちゃんって、瑞希お姉ちゃんと始終、抱き合ってるから、抱き合いたいドキドキ感がないのよ」
明日香が呆れたふうに言う。
「いつも一緒にいるから、会いたいドキドキ感もないのよ。だから恋をして、悶絶することがないんだわ」
「・・・・・・」
瑞枝おばさんがため息をつく。
「明日香ちゃん、この2人は特別なの。だから、このまま見守ってあげるのが1番だったのに、私達、夫婦はそう思って見守ってきたのに、明日香ちゃんはまだまだ若いわね」
明日香は瑞枝おばさんからそう言われるとシュンとした顔になってクッションに顔を埋める。
「ここまで話したら、しかたないわね。もう少し、話をすすめましょうか」
瑞枝おばさんが優しく微笑む。
「前に瑞希が風邪で休んだ時、蒼ちゃんは学校でどうだった授業に集中できたかしら?」
それは心配でならなかった。早退してでも駆けつけたかった。
「瑞希は今年、高校3年だから、来年は大学生ね。都会の大学に行くとなったら、蒼ちゃんと離ればなれになるわ。蒼ちゃんはそれを考えた時、どう思ったかしら」
一年も会わないなんて苦しいと思った。都会に瑞希姉ちゃんが行ってしまうと思うと、一人になって寂しいし、怖いと思った。心に穴が開いたようになって、普段の生活もできなくなるかもしれないと思った。
「いつも蒼ちゃんは瑞希姉ちゃんと呼んでいるけど、「瑞希」と心の中であの子に話しかけてみて。どう感じるかしら」
とても恥ずかしい。それを考えただけで体温が上がる。顔が熱くなるのがわかる。今、真っ赤になっているだろう。本人に「瑞希」なんて言えないよ。恥ずかしくて体が震える。
「蒼ちゃんは「瑞希」を手放したい。「瑞希」と距離を取りたい?」
手放したくない。離れたくない。一緒にいてほしい。いつも会いたい。いつも僕を見ていてほしい。
「蒼ちゃんは立派に瑞希に惚れてるの。恋してるの。これでわかったかしら」
僕が瑞希姉ちゃんに恋をしてる・・・・・・そんな・・・・・・全く気付かなかった。
瑞枝おばさんに言われると、色々な兆候はあったような気がする。でもわからなかった。
「明日香、もし、僕と瑞希姉ちゃんがお互いに恋をしていたら、お前はどうするつもりだ?」
「私は蒼お兄ちゃんと暮らすのを諦めるわ。雅之おじさんに言って、瑞枝おばさんの許可を得て、私はこの家で暮らしたい。だって2人の邪魔はしたくないもの」
「そうね。私も喜んで明日香ちゃんを迎え入れるわ。だって将来、私達の義理の娘になるんだもの」
それは少し気が早すぎませんか。
「後、瑞希にはこの家を出てもらいます。私達も蒼ちゃんと瑞希の邪魔をしたくないもの。それに早く孫の顔も見たいし」
だから、なぜ、そんなに気が早いんですか。ちょっと待ってください。そこまでの心の準備がありません。
「私も、父さんも、蒼ちゃんになら、瑞希をお嫁さんにもらってほしいとおもってるの。だから、今から準備をしておかないといけないわ。だから蒼ちゃんと瑞希には同棲をしてもらいます」
はぁ、雅之おじさんも、瑞枝おばさんも飛ばし過ぎだよ。
「新しい娘として明日香ちゃんが来てくれたんだし、丁度いいわね」
何が丁度いいんんですか。
ここは僕がまだ瑞希姉ちゃんのことを恋してるかどうかわからないと答えておいたほうが良さそうだ。
「あの~、まだ僕はお子様で、正直、瑞希姉ちゃんに恋してるかどうかわかりません」
「蒼お兄ちゃん、セリフが棒読みになってるわよ。もう、自分の心がわかったんでしょう。正直になりなさいよ」
正直になったら、同棲が待ってるんだよ。結婚も間近に迫ってるんだよ。ちょっと話が飛び過ぎるよ
「まだ、瑞希姉ちゃんと、付き合っている感覚がないわけで・・・・・・」
「今まであんなにイチャイチャしていて、何を言ってんのよ。十分に付き合ってるわよ。観念しなさい。蒼お兄ちゃん」
瑞枝おばさんが優しい微笑みを浮かべているが、目が笑っていない。マジの目だ。
「もう2人共、自分の心がわかってるんだから、今まで通りに付き合っていけばいいだけでしょう。後は慣れていくものよ。結婚したら慣れるもんなんだから」
「瑞枝おばさん、ちょっと時間をください。まだ実感がわかないんです。ごめんなさい」
本当に付き合ってる自覚がないんだからしょうがない。
「わかったわ。そこまでいうなら、時間をあげます。その間に付き合ってる実感を持ちなさい」
「瑞希お姉ちゃんと蒼お兄ちゃんにはドキドキ感がないから、付き合ってる感がないのよ」
明日香、これ以上、僕を責めないでくれ。さすがに精神的にクタクタになってきたよ。
「明日香ちゃんのいうことも尤もね。だから明日から瑞希と蒼ちゃんには同棲してもらいます」
はぁ、同棲、僕達、まだ高校生なんですけど・・・・・・
その時、インターホンの音が鳴って、瑞希姉ちゃんが帰ってきた。最悪のタイミングだ。瑞希姉ちゃんがリビングへ入ってくる。リビングで正座して、冷や汗をかいている僕を見て、瑞希姉ちゃんが不思議な顔をしている。
瑞枝おばさんがニコニコ笑って、瑞希姉ちゃんに告げる。
「明日香ちゃんが決めてくれたんだけど、明日香ちゃんはこれからもこの家で暮らしてくれることになったの。お父さんと相談して、あのアパートは引き払うわ。正式に私達の家で明日香ちゃんを引き取ります」
瑞希姉ちゃんはそれを聞いて満面の笑みになった。
「よかったわ。どうなるかと心配してたんだけど。この家で明日香ちゃんも暮らしてくれるのね。これからは楽しくなるわ。私も応援するから頑張ろうね。明日香ちゃん」
瑞希姉ちゃんは無邪気に喜んでいる。
しかし、瑞枝おばさんの話はこれで終わりではなかった。
「明日香ちゃんがこの家の一員になったから、定員オーバーになっちゃったの。だから瑞希は引っ越しね。蒼ちゃんの家に空室があったはずよね。そこをこれから瑞希の部屋にすればいいわ。これからは瑞希は蒼ちゃんの家で暮らしなさい」
瑞希姉ちゃんの顔が引きつっている。そしてゆっくりと首を回して僕を見る。
その目は、
”これはどういう展開で、こんな話になったのかしら?蒼ちゃん?”
と問いかけてくる。
僕は首を激しく横に振った。
”僕のせいじゃない。全部、瑞枝おばさんが考えた”
僕は一生懸命に視線を送った。
瑞枝おばさんの発案は雅之おじさんに了承されて、僕と瑞希姉ちゃんが学校に黙って、隠れて同棲することになった。
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◇第一部 転校編の完結となります。
第2部同棲編、第3部恋人編まで全完結しています。
今回はスターツ賞投稿のため第一部までとさせていただきました。何卒、よろしくお願いいたします。