次の日の朝、瑞希姉ちゃんが僕のベッドに潜りこんできた。2日ぶりかな。良い香りがする。

 僕は瑞希姉ちゃんに抱き着いて、瑞希姉ちゃんを抱き枕にして眠る。瑞希姉ちゃんも僕の頭を手で覆って出し決める。僕は瑞希姉ちゃんの胸の間に顔を埋めて頬ずりをする。
 

 眠りの浅い中で気持ちよい肌触りに包まれて、良い香りに包まれて、僕は眠る。とても気持ちがいい。耳の近くで寝息が聞こえてくる。瑞希姉ちゃんも眠っているようだ。その寝息がとても落ち着く。


 二人でベッドの中で寄り添って眠る。僕と瑞希姉ちゃんの密やかなひと時。


「蒼お兄ちゃん、朝・・・・・・キャーーーー!」


 僕と瑞希姉ちゃんはその悲鳴を聞いて、2人して悲鳴の方向へ振り向いた。そこには口を両手で覆った、明日香が立っていた。すこし、体がよろめいている。


 瑞希姉ちゃん、鍵を閉め忘れてのか。


「ああ、明日香か。おはよう。起こしにきてくれたんだね」

「あら、明日香ちゃん。おはよう。今日は朝が早いのね」


 明日香がオロオロとして目が泳いでいる。


「なぜ、そんなに堂々としていられるの」

「だって、お父さん、お母さん公認だもの」

「そうだね。雅之おじさん、瑞枝おばさんの公認かも・・・・・・?」


 明日香は意味がわからないという顔で、机に手を置いて、首を横に振っている。


「あの、蒼兄ちゃんと瑞希お姉ちゃんは付き合ってるの」


 2人で顔を見合わせる。瑞希姉ちゃんが顔を真っ赤にして答える。


「まだかな。そうなってくれると嬉しいって思ってるけど・・・・・・」

「・・・・・・」


 明日香は目を吊り上げて、僕達のほうへ指差す。


「2人がこんなだったら、私はどこで暮らせばいいのよ」


 僕は寝ぼけ眼を擦りながら、「ここでもいいし、瑞希姉ちゃんの家でもいいよ。前に明日香が選んだらいいよっていったじゃん」と言うと、明日香は目を吊り上げる。


「私に毎日、こんなラブラブを見ろっていうの。せっかく蒼お兄ちゃんと暮らせると思ってたのに、2人で一緒に暮らせると思ってたのに~。話が違う!」

「まず、落ち着け明日香。もうそろそろ、瑞希姉ちゃんが着替えないといけないから1階に行こう」


 僕が明日香の手を繋ごうとすると、手を払いのけられた。ん~これは手強い。


 とにかく男子の俺がいたら、瑞希姉ちゃんが着替えられない。僕は1階のリビングへいく。不満そうな顔をして明日香も付いてくる。


 僕は洗面所へ行き、歯を磨いて、顔を洗う。そしてリビングのソファに座った。既にソファに座っていた明日香から冷たい視線が送られてくる。


 しばらくすると制服に着替えた瑞希姉ちゃんが降りてくる。髪もポニーテールにしている。瑞希姉ちゃんも歯を磨いて、顔を洗って、髪の毛をブローして、台所へ向かうと、椅子にかけてあった、エプロンを付けて朝食の用意をし始める。


「蒼ちゃん」と瑞希姉ちゃんが呼ぶ。
”今日の朝食は何がいい?明日香ちゃんもいるし、パンでいいかな?”
と目で語りかけてくる。


「うん」と僕が答える。
”明日香もいるし、簡単なものでいいよ”
と目で答える。


 すると「わかった」と言って瑞希姉ちゃんが食パンの用意をして、フライパンを出して、朝食の用意をし始める。


「蒼お兄ちゃん、今、瑞希姉ちゃんと目で会話をしてたよね」

「ん、最近、けっこうよくするかも」

「そんなの普通のカップルでもできないと思うんですけど」

「それだけ瑞希姉ちゃんと僕が仲が良いということじゃないかな」


 明日香の目が吊り上がる。


「私の計画はどうなるのよ。私は蒼お兄ちゃんと2人で暮らしたかったのよ」

「そんなことを言われても、僕は今の暮らしが気に入ってるし」


 明日香には慣れてもらうしかないね。


「蒼お兄ちゃんは、可愛い妹と2人で暮らしたいって思わないの」

「別に2人きりになる必要ないだろう」

「蒼お兄ちゃんも瑞希お姉ちゃんも大嫌い~最低~!」


 明日香は玄関から出て行ってしまった。


 これは困ったことになったな。明日香がこんなにブラコンになるとは思わなかったぞ。明日香が藤野香織のようになったら困る。はやめに手を打っておかないとな。


 瑞希姉ちゃんは何も気にしていない様子で朝食を作っている。


「瑞希姉ちゃん」
”明日香が出て行っちゃったけど、大丈夫なの”

「うん」
”大丈夫よ。そのうちに慣れるわよ。変に気にしてもおかしいでしょう”

「なるほどね」
”瑞希姉ちゃんの言う通りにする”


 瑞希姉ちゃんが朝食を作り終わった。今日の朝食は食パンとスクランブルエッグとウインナーとコンソメスープだった。2人で「いただきます」と言い、テーブルの朝食を食べる。スクランブルエッグとウインナーが絶品です。


 瑞希姉ちゃんも美味しそうにウインナーを食べている。


 僕がスクランブルエッグを食べ終えてしまうと、フライパンに追加のスクランブルエッグが用意されていた。それを皿に移し替えてくれる。


「やっぱりもっと欲しがるかなって、思ってたの」


 さすが瑞希姉ちゃん、僕のことをよく知ってる。


 2人で朝食の後片付けをして、食器を片付けていく。


「それじゃ、蒼ちゃん、明日香ちゃんのことお願いね。私、学校に行くから」


 瑞希姉ちゃんはそう言い残すと玄関を開けて、学校に行ってしまった。


 さて、明日香のことはどうしよう。とにかく瑞希姉ちゃんの家に行ってみるか。僕は玄関から出て、家の鍵をかけて、隣の瑞希姉ちゃんの家に行く。そしてインターホンを鳴らすと、瑞枝おばさんが笑いながら玄関を開けてくれた。


 玄関で靴を脱いで、リビングへ入ると、瑞枝おばさんが大笑いをしている。そして明日香が三角座りをしていた。相当、拗ねているようだ。


「明日香ちゃんが、蒼ちゃんと暮らすなら、今の蒼ちゃんの生活をわかってもらおうと思って、明日香ちゃんに朝、起こしに行ってもらったのよ。やっぱり瑞希と2人でベッドで寝ていたのね。明日香ちゃん、帰ってきてから拗ねまくってるわよ」


 誰がそういう風に仕組んだんですか。瑞枝おばさんですよね。どうにかしてくださいよ。


 僕はジト目で瑞枝おばさんを見るが、瑞枝おばさんはニコニコと笑っている。


その笑顔は
”ブラコンも直ってもらわないといけないでしょう”
と語っている。


 さすが、瑞希姉ちゃんのお母さんだ。目で語りかけてくるなんて。


 ハァとため息をついて、僕はソファに座って、明日香を見る。明日香は三角座りをしたまま虚空の一点を見つめている。


「明日香、蒼お兄ちゃんと2人きりで暮らしたいという気持ちはわかるんだけどさ、既に雅之おじさんと瑞枝おばさんと瑞希姉ちゃんとは家族ぐるみの付き合いをしてるわけでさ。俺も色々とお世話になりっぱなしなんだけど。今回の明日香の件もお世話になってるし。2つの家は家族みたいなもんなんだよ」


 明日香はジト目で俺を見る。絶対零度の冷たい視線だ。


「だからって瑞希お姉ちゃんと蒼お兄ちゃんが一緒のベッドで寝てるのっておかしくない?」


 やっぱり、そこは突っ込まれるよな。


「ん~。瑞希姉ちゃんと僕は特に仲が良いんだよ。小さい頃からさ。明日香は覚えてないかな」

「小さい頃と、今の高校生の時とは状況が違います。そんなごまかしは通用しません」


 そうですよね。通用しませんよね。


「蒼お兄ちゃんはいったい何を考えてるの。瑞希お姉ちゃんにベッタリ甘えちゃって」


 そこは否定できません。


「蒼お兄ちゃんは、瑞希お姉ちゃんのこと彼女じゃないって感じだけど、どこから見ても彼女だよ」


 よく言われます。


「なあ、明日香、お前って中学校に行ってた時、よくモテてたと思うんだけど、自分から恋をしたことはあるの?」

「はぁ、私を馬鹿にしてるの。私も年頃なんだから、恋の1つや2つは経験あります」


 明日香がプリプリと頬を膨らませて怒る。


「蒼お兄ちゃんな。恥ずかしい話なんだけど、年齢=彼女いない歴でな。恋とか恋愛ってしかことがないんだよ。だから、どれが恋で、どれが恋愛なのか、今一、よくわかっていないんだ。明日香が知ってるなら、僕に親切、丁寧に教えてくれないかな。みんな色々ヒントはくれるんだけど、答えを教えてくれないんだよ」

「ハァ、ダメな蒼お兄ちゃんだね。本当に残念。高校生が中学生にする質問じゃないでしょう」


 それはわかってる。普通なら立場が逆なのもわかってるけど、女子のほうが精神年齢が上っていうじゃないか。


「そうね。まずはその人のことを気になりはじめるの。どうしてもチラチラって見ちゃうとか、盗み見しちゃうとか。そして恰好いいいな、とか、可愛いなって思い始めて、ずっとその人のことを見るようになっちゃうのよ」


 なるほど、はじめは気になってチラ見したり、盗み見したりするのか。それできれいだな。可愛いなと思うんだな。それで、その女子のことを追いかけるように見るようになるのか。勉強になるな。わかりやすい。


「次に、授業中や休み時間でも、その人のことを想って、授業に集中できなかったり、ボーっとしたりしちゃうのよ」


 授業中や休み時間でも、その女子のことを想って、授業に集中できなかったり、ボーっとしたりするのか。


「もっと重症になってくると、休みの日でも、その人のことを想ったり、学校から帰ってきてもその人のことを想ったりするわ。その人の恰好いいところなんか思い出して胸がキュンとなるんじゃん」


 重症になると、休みの日でも、その女子のことを想って、学校から帰ってきても、その女子のことを想うようになる。そして、その女子の恰好いいところなんか思い出して胸がキュンとなるだな。


「そしてもっと重症になると妄想が広がって、悶え苦しむことになるのよ。恥ずかしいこととか考えて」


 もっと重症になると妄想が広がって、悶え苦しむくらいに恥ずかしいことを考え出すようになる。


「なあ、明日香、具体的に悶え苦しむような恥ずかしいことって、どんなことだ?」

「もう、蒼お兄ちゃんの馬鹿。そんなこと女子の私に聞かないでよ。恥ずかしい~。例えばキスとかよ。後、抱きしめ合うとか。あ~恥ずかしい。なんで私が蒼お兄ちゃんにこんなことを説明しないとだめなのよ。馬鹿」


 なるほど、休みの日でも、学校が終わって家に帰ってきても、好きな女子とキスする場面や抱きしめ合う場面を想像して、悶え苦しむのか。だから恥ずかしいというわけだな。


「それでどうなるんだ?」

「だから、その人と本当にキスしたり、抱きしめ合ったりしたくなるんじゃない。だから他の人に取られたくなくなるんじゃん。だから、他人に取られるかもって思うと心が苦しくなったり、会えないと思うと苦しくなってりするんだよ」


 その女子とキスしたり、抱きしめ合ったりしたくなる。その女子を誰にも取られたくない。もし他人にその女子がとられるかもしれないと思うと心が苦しくなる。会えないと思うと心が苦しくなる。なるほど。


「で、どうなるんだ?」

「人それぞれだと思うけど、その人から告白されるのをジッと我慢して待つ女子もいるし、自分から彼氏になってほしいって告白する人もいるわ。でも本当の意味は、私だけのものになって、私だえけに恋して、私だけを愛してっていうことなのよ」


 本当の意味はその女子に自分だけに恋をしてほしい。自分だけを愛してほしいというわけか。


「わかった。明日香が今日、どうして明日香が僕と瑞希姉ちゃんのことで怒ったのかわかったよ。明日香は瑞希姉ちゃんに僕を取られると思ったんだね。それだけ明日香は僕のことを想ってくれてるっていこうことだね。ありがとう。明日香」


 明日香の顔が段々と真っ赤になっていく。そして肩をプルプルと震わせている。


「蒼お兄ちゃんと2人きりで暮らしたいっていうのも、明日香の僕への愛の現れなんだね。でも僕はお兄ちゃんだから、明日香の恋人にはなってあげられないよ。明日香のこときれいで可愛いと思うけど。ごめんね。妹だから、そんな目でみることはできないよ」


 明日香がいきなりソファのクッションを僕の顔面に投げつけた。


「蒼お兄ちゃんのアホ~」


 台所のテーブルの席で瑞枝おばさんが涙を流して笑っている。僕は何か間違ったことを言ったのか。


 後に、明日香からまた説教を受けることとなった。