今日は瑞希姉ちゃんが朝、僕のベッドに潜り込んでこなかった。眠たい目を擦りながら1階へ降りていくと、台所はガラーンとしていて、瑞希姉ちゃんの姿はなかった。とにかく学校に行く用意をしないといけない。いつも瑞希姉ちゃんに起こしてもらっていた癖で、アラームをセットするのを忘れてた。もう学校に行くのにギリギリの時間だ。急がないと。


 僕は制服に着替えて、歯を磨いて、顔を洗って、鞄を持って玄関を出る。そして瑞希姉ちゃんの家のインターホンを押した。すると玄関を開けて瑞枝おばさんが顔を出す。


「ごめんね。今日は瑞希、風邪ひいちゃって寝込んでるの。今日の朝、蒼ちゃんの所に行こうとしたみたいなんだけど、体がフラついて自分の部屋から出られなかったみたいなの。瑞希は熱に弱いから」

「大丈夫なんですか?」

「1日、寝ていたら治ると思うわよ。今、お薬を飲ませて寝かせているから大丈夫よ。学校から帰ってきたら、見舞ってあげて」

「はい」


 瑞枝おばさんは僕が学校へ行くのを笑って見送ってくれた。


 瑞希姉ちゃんが風邪をひいた。大変だ。いつもいっぱいお世話になっているのに、僕はなにもできない。


 トボトボと歩道を歩いていると、悠と莉子の2人が手を繋いで歩いてくる。


「蒼大、どうした?元気がないな。あれ?瑞希姉ちゃんは?」

「瑞希姉ちゃんは今日は風邪で休みだよ」

「だから元気がないのか。蒼大はわかりやすいな」


 悠が僕に優しく笑う。僕は自分の髪を掻く。


「はぁ、瑞希先輩が風邪で休んだくらいで、そんなにショックなわけ?べた惚れじゃん。咲良の入る余地ないじゃん」


 だって瑞希姉ちゃんが風邪なんだよ。そりゃ、心配するよ。莉子、無茶を言わないでほしい。


「1人で歩いていても、心配ばっかりしてそうだから、一緒に学校へ行こうぜ」


 悠が僕のことを気にしてくれて、声をかけてくれる。


「2人に悪いから、僕1人で学校にいくよ」


 学校に向けて走る。2人に迷惑をかけるのがイヤだった。それに1人で瑞希姉ちゃんのことを思っていたかった。


 少し走って、悠達と距離を取ってから歩きだす。今日は学校へ向かう距離も、いつもより倍くらいあるように感じる。足が重い。横を向いても瑞希姉ちゃんの笑顔がない。それだけでこんなに、学校の距離も変わっちゃうんだな。


 後ろから背中をポンと叩かれた。美咲姉ちゃんが僕の顔を覗き込んでくる。


「おはよう、蒼ちゃん。瑞希はどうしたの?」

「今日は瑞希姉ちゃん、風邪で学校を休むって言ってました」

「そうなんだ。風邪か。瑞希もお気の毒に。早く治ればいいけど」

「・・・・・・」


 美咲姉ちゃんが僕の手を取って握り締める。


「今日は私が蒼ちゃんと一緒に学校に行ってあげるよ」

「ありがとう」


 美咲姉ちゃんが僕を安心させるようににっこりと笑う。僕も笑いかえしたけど、上手く笑えているんだろうか。


「蒼ちゃんと瑞希には良い機会かもね。今日1日、瑞希がいなくて、どれだけ寂しいか、実感してみなさい」

「もう、寂しいです」

「蒼ちゃんも瑞希が1人の女性だってことを理解しないとね。その寂しさはお姉ちゃんを探してるのかな?それとも瑞希を探してるのかな?」


 わからない。だから答えられない。


「ごめんね。落ち込んでる蒼ちゃんに追い打ちかけちゃったね。瑞希の代わりにはなれないけど、美咲姉ちゃんが蒼ちゃんと一緒が学校に行ってあげるから、そんな寂しそうな顔しないで」


 美咲姉ちゃんが困った顔をしている。僕は美咲姉ちゃんに「大丈夫」と言って笑いかける。美咲姉ちゃんが僕のフワフワの髪を撫でた。2人で手を繋いで学校へ向かって歩いていく。


「そうだ。昼休みに学食に来て。一緒にお昼を食べようよ」

「はい」


 美咲姉ちゃんと靴箱の所で約束をして分かれた。そして2階にのぼって自分の教室へ入る。蓮が結衣の席の周りをウロチョロしている。

 芽衣と目が合った。芽衣はにっこり笑って僕に手を振る。僕も手を振り返す。すると蓮が僕のほうへ振り返った。


「なんだ~蒼大か。今日はしけた顔してんな。朝飯でも抜いてきたのか?」


 蓮の放った一言に僕は笑みを浮かべる。


「そうなんだ。今日は朝ごはん抜きでさ。元気が出ないんだよ」

「昼飯食ったら、元気もでるだろ。俺は今、芽衣と大事な相談をしてるから。後でな」


 実に蓮らしい答えだ。少し心の中の霧が晴れる。


 自分の席に座って、肘をついて顔を乗せる。まだ始まってもいないのに、今日1日の授業が長く感じる。


 ボーっと席に座っていると、咲良が教室に駆け足で入ってきた。すぐにHRのチャイムが鳴る。ギリギリだ。咲良は自分の席について、息をハァハァ言わせている。ずいぶんダッシュしたんだろうな。大丈夫かな。


「おはよう、蒼」

「おはよう、咲良」


 咲良はにっこり笑うと、鞄の中から今日の授業の用意を始めた。僕も鞄から勉強道具一式を出して、今日の授業の用意をする。


 ダル先生が教室に入ってきた。教壇の前に立つと「今日の午後からの授業はなし。午後は体育祭の競技参加選手を決める。前から言っていたから、準備はできていると思うが、自分が参加したい競技は決めておくように」


 そういえば、前にダル先生が言ってたな。僕は何に参加しようか。体が貧弱だから騎馬戦なんかは不参加。後、応援団も様にならないから不参加にしたい。やりたい競技なんてないよ。体育祭って1番苦手だ。


 午前中の授業が始まった。授業に集中しようとするけど、瑞希姉ちゃんのことが気になる。頭の中に色々な瑞希姉ちゃんが表れる。寝ている姉ちゃん、笑っている姉ちゃん、喜んでいる姉ちゃん、可愛い姉ちゃん、きれいな姉ちゃん、泣いてる姉ちゃん、悲しんでいる姉ちゃん、色々な瑞希姉ちゃんの顔が浮かんでは消える。


 会いたいな。今日は仮病を使って早退しようかな。でも、美咲姉ちゃんとお昼を一緒に食べる約束があるんだ。早退はできないや。


 授業に身が入らない。集中力が出ない。瑞希姉ちゃんが学校を休んだだけで、こんなになっちゃうなんて。僕ってダメだな。もっとしっかりとしないと。瑞希姉ちゃんに心配されちゃうよ。


 美咲姉ちゃんが言ってたな。瑞希姉ちゃんを1人の女性として見てあげてって、僕には難しいな。どうすればいいんだろう。僕はふと「瑞希」と口の中で呟いた。”瑞希”、名前を呼び捨てるだけで、体温が上昇するのがわかる。心臓がドキドキする。瑞希姉ちゃんと会いたくなって胸が苦しい。キュンとなる。どうしたんだろう。僕に何が起こったんだろう。



 僕が瑞希姉ちゃんの家に見舞いに行ったところを想像する。そして寝ている瑞希姉ちゃんに僕が「瑞希、大丈夫か」と心配そうに声をかけている。その映像が頭の中に流れた時、猛烈な恥ずかしさが襲ってきた。ここが家のベッドの上だったら悶えて転げ回っていただろう。


 これは体に悪い。授業中に考えることじゃない。恥ずかしい。苦しい。胸がキュンキュンする。


 午前中の授業は一切頭に入らなかった。


 昼休憩になり、なんとか自分の妄想から脱出して、廊下を歩く。ハァ、なんて恥ずかしい妄想をしてしまったんだ。瑞希姉ちゃんの顔を直視できないよ。恥ずかしい。


 余りにボーっと歩いていたので、蓮と瑛太を置いてきてしまった。僕って何をやってるんだ。


 食堂に入ると、美咲姉ちゃんが走ってくる。


「席は取ってあるよ。早く食券を買おう」


 美咲姉ちゃんが笑顔でいう。僕も笑顔で「うん」と答える。


 食券機で食券を買って、美咲姉ちゃんと一緒に列に並ぶ。日替わり定食のトレイを持って、美咲姉ちゃんと手を繋いで、席に向かう。すると席には3年生の女子が3名、僕が来るのを待っていた。


 美咲姉ちゃんは繋いでいた手を放して、僕の頭を撫でる。


「この子が瑞希の隠してた秘蔵っ子の蒼ちゃんよ。どう可愛いでしょう」


 3人の3年生女子から「可愛い」「女の子みたい」と声があがる。僕は恥ずかしくて、いたたまれなくなる。思わず美咲姉ちゃんの後ろへ隠れた。


「蒼ちゃん、恥ずかしがってないで、お姉さん達に自己紹介しなさい」

「2年3組、空野蒼大です。よろしくお願いします」


 僕が名前を言うと「声高い~」「きれいな声」と声があがる。

 美咲姉ちゃんが席に座る。僕も対面の席に座った。すると3人の3年生女子から自己紹介が始まった。


「私は、霧野楓(キリノカエデ)っていうの。楓姉ちゃんって呼んでね。可愛いね、蒼ちゃん。よろしく」

「私は、唐沢恵梨香(カラサワエリカ)よ。恵梨香姉ちゃんよ、癒しがほしいの。私の癒しになって」

「私は、新藤凛(シンドウリン)。凛姉ちゃんね。会うのを楽しみにしてたわ」
 

 3人がいっぺんに自己紹介をするから、覚えられない。僕は目を白黒する。


「この3人のお姉ちゃんには、蒼ちゃんのことを少しだけ話してるのよ。瑞希の隠してる可愛い弟くんだって。そしたら、3人共、蒼ちゃんに会いたがってね。今日は一緒に連れてきちゃった」


 美咲姉ちゃんがいたずらっ子のような顔をしてサムズアップする。なぜ、そこでサムズアップなの。


 それから、色々と美咲姉ちゃんを含む4人のお姉ちゃんから質問攻めにあった。あまりの賑やかさに目が回る。何を自分が答えたか覚えてない。名前を覚えるだけで精一杯だ。


 なぜかよくわからないけど、今度の土曜日に楓姉ちゃん、恵梨香姉ちゃん、凛姉ちゃん、3人のお姉ちゃんと遊びに行くことになった。美咲姉ちゃんは「瑞希を怒らせたくない」と言って、遊びに行くのを辞退した。


 僕だけで初めて会ったような3人のお姉ちゃんと遊びに行くなんて、そんなの無理だよ。美咲姉ちゃん、逃げないで。


「どうせ、瑞希が知ったら、瑞希が付いてくるに決まってるじゃないの。瑞希がなんとかしてくれるわよ」


 美咲姉ちゃん、それは余りにも投げっぱなし過ぎるよ。


 日替わり定食を食べ終わり、4人のお姉ちゃん達も自分達が持ってきたお弁当は食べ終わったが、まだおしゃべりは終わらない。3年生の今のクラスの現状や、受験のこと、瑞希姉ちゃんの授業態度のこと、色々なことを教えてくれる。できるなら、瑞希姉ちゃんのことだけを教えてほしい。


 昼休憩が終わるチャイムが鳴った。4人のお姉ちゃん達は僕に手を振りながら、走って教室へ戻っていった。僕も返却口へトレイを返却して、自分の教室に走って戻る。


 ギリギリ、ダル先生が教室に入ってくる前に自分の席に座ることができた。まだ、息切れしている。横で咲良がクスクスと笑っているが、咲良に声をかける余裕はなかった。


 ダル先生が教室へ入ってきて、教壇の前に立つ。


「これから体育祭の競技に参加する選手を決める。クラス委員長、前に出て、司会進行をするように」


 クラス委員長の2人が前に出て、司会を務める。ダル先生は教室の前の隅にパイプ椅子を置いて座っている。実にダルそうだ。


 僕の頭の中ではさっき出会った4人のお姉ちゃんのことで頭がいっぱいだ。頭の中を整理しなくちゃ。


 まず、美咲姉ちゃんは、茶髪のミディアムヘアーで毛先が少しカールしている。切れ長の二重まぶた、いつも唇がリップで濡れていて色っぽい。いたずらっ子な面があるような気がする。スタイルがよくて、後ろ姿が特にきれいだ。もちろん、前からもきれいだけど。


 楓姉ちゃんはおっとりしていて、目尻が下がって、優しい眉をしている。ほんわかした雰囲気をしている。胸が大きく、瑞希姉ちゃんよりも大きいかもしれない。まるでロケットだ。全体的に色気たっぷりだからドキドキする。


 恵梨香姉ちゃんは金髪の髪の毛をしていて、とにかく派手。髪の毛は肩まで伸ばしていて、所々、跳ねている。それがとても可愛く見える。とにかく美形。唇の下にある小さなホクロが色っぽい。正確は肉食系なような気がする。制服のシャツも2つボタンを外していて、胸元が見えそうでドキドキする。スカートの丈も極端に短かった。


 凛姉ちゃんは髪の毛をボブカットにしていて、少し目尻が吊り上がっている。ハッキリ二重だ。一番、常識を弁えているような気がする。でも、なぜか苦労人の匂いもする。制服もきっちりと着こなしていて、恰好がいい。


 美咲姉ちゃんを含めるといっぺんに4人のお姉ちゃんができたんだけど、美咲姉ちゃんは一体、何を考えているんだろう。よくわからない。何も考えていないのかもしれないな。


 そんなことを考えていると、咲良が僕の脇を突く。僕はハッとして咲良を見ると、咲良が慌てている。


「蒼、何をボーっとしてるの。もうすぐ体育祭の競技の参加、終わっちゃうよ。蒼だけどこにも手を挙げてないけど、どうするの」

「僕は体も貧弱だし、大声も出ないし、体育祭って苦手なんだ。無難な競技に出られるなら、それでいいよ」


 ダル先生がこっちを見てる。マズイ。僕は黒板に書かれている競技と参加選手を見る。黒板には不人気な競技しか残っていない。ま、何でもいいや。どうせ僕が重要なポストになるわけじゃないし。僕はそれからも一切、手を挙げなかった。


 するとダル先生が「蒼大、お前、体育祭がイヤなんだろう。お前の競技は俺が決めてやる。借り物競争だ。これならお前でも、少しは勝てる見込みがあるだろう。これだけは本当に運だからな」


 ダル先生に強制的に借り物競争に決定された。でもこのほうが、僕にとっては都合が良かった。ありがとうダル先生。


 体育祭の競技に出る選手が全て決まった。そしてダル先生のHRが終わり、放課後になった。僕は机の中にある勉強道具一式を、鞄の中に詰め込んで、教室を出て急いで瑞希姉ちゃんも元へ走る。


 途中で息があがり、走れなくなったので、歩いて瑞希姉ちゃんの家へ向かう。午後の授業の間、瑞希姉ちゃんのことを一瞬、忘れていたことに、罪悪感が沸いてくる。その分だけ瑞希姉ちゃんのことが心配になってきた。


 瑞希姉ちゃんの家に着いて、インターホンを鳴らして「蒼です」と言うと、玄関を開けて、瑞枝おばさんがにっこり笑っている。


「蒼ちゃん、急いで帰ってきてくれたのね。瑞希も今は熱もなくて、大丈夫よ。まだベッドに寝かせているけど、あがっていらっしゃい。蒼ちゃんの顔を見たら、瑞希の風邪なんて、どこかへ飛んでいくわ」


 瑞枝おばさんの手招きに誘導されるように、僕は玄関で靴を脱いで、2階に上がって、瑞希姉ちゃんの部屋のドアをノックする。すると中から「入っていいよ」と声がする。ドアを開けて部屋に入ると、ベッドの中で瑞希姉ちゃんが、布団から顔を半分だけ出して、僕を見ている。


 僕はベッドの上に腰かけて、瑞希姉ちゃんの顔を見つめる。瑞希姉ちゃんは目で”ごめんね”と伝えてくる。僕は笑って”いいよ”と笑う。


 瑞希姉ちゃんが起き上がろとするから、両肩を持って、無理矢理に寝かせた。


「ダメだよ。寝ていてよ。風邪をひいてるんだから、無理しちゃだめだよ」

「うん」


 瑞希姉ちゃんは素直にベッドに横になった。瑞希姉ちゃんの頬がほんのりピンク色になっている。熱がまだ残っているんだろうか。


 僕は手を伸ばして、瑞希姉ちゃんの額を手で触る。額は冷たい。本当に熱はないようだ。


「今日の学校はどうだったの」


「午前中の授業は瑞希姉ちゃんのことばかり考えていたから、全く何をしていたか覚えてない」


「はぁ、蒼ちゃん、しっかりしてね。それから後は」

「昼休みは美咲姉ちゃんとお昼を食べることになって、楓姉ちゃんと恵梨香姉ちゃんと凛姉ちゃんを紹介された」


 それを聞いた瑞希姉ちゃんがベッドから起き上がって、僕の両肩を掴む。


「なんであの3人が、蒼ちゃんのことを知ってるの。まさか美咲、私に黙ってあの3人に蒼ちゃんのこと話していたの。信じられない。そしてどうなったの?」


 瑞希姉ちゃんが優しい笑顔で僕に問いかける。僕は答えるのが少し怖かった。


「なんだかよくわからないけど、美咲姉ちゃん以外のお姉ちゃん達と土曜日に遊ぶことになっちゃって・・・・・・僕にもよくわからないんだけど」


 瑞希姉ちゃんが僕の両肩をもって、激しく揺らす。


「そんなのダメよ。蒼ちゃんを取られちゃう。私も付いて行くから」


 瑞希姉ちゃんの顔が真剣だ。これは本気だ。


「美咲姉ちゃんも瑞希姉ちゃんが絶対に付いて来てくれるから大丈夫って言ってた」


「もう、美咲ったら、問題がおきると、いつも私に丸投げするんだから」


 やっぱり美咲姉ちゃんってそういう性格なんだね。これからは注意しよう。

 
 とにかく瑞希姉ちゃんの興奮を止めなくちゃ。


 僕は瑞希姉ちゃんの首に手を回して抱きかかえると耳元でささやいた。


『今日1日、いっぱい瑞希姉ちゃんのこと心配した。途中で学校も早退しようか考えた。瑞希姉ちゃんが元気でよかった。本当に嬉しいよ。でも、まだ治ったばかりだからベッドに横になって。もし瑞希姉ちゃんが明日も休むようなら、僕も学校を休んで、瑞希姉ちゃんの傍にいるから』


 瑞希姉ちゃんは「ごめんさない」と言って、ベッドに横たわる。僕は布団をかぶせてあげる。


 瑞希姉ちゃんの瞳から大粒の涙が溢れている。「嬉しいよ」と小さな声が聞こえた。僕はポケットからハンカチを取り出して、瑞希姉ちゃんの涙を拭いてあげる。


瑞希姉ちゃんは布団に半分、顔を隠して、目だけ僕を見ている。


「早く良くなってね」

「蒼ちゃん、治ったら、蒼ちゃんの部屋に行ってもいい?」

「うん、待ってる」


 瑞希姉ちゃんが両手を広げてニッコリと優しく微笑む。僕は瑞希姉ちゃんを優しく抱きしめた。