咲良が隣の席からチラチラと僕のことを見ているのがわかる。昨日、早く帰ったことを、気にしているのかもしれないな。昨日、心配してくれたこと、きちんとお礼を言っておかないと。
休憩時間に咲良から僕に声をかけてきた。
「昨日は大丈夫だったの?顔を青くして、家に帰っていったけど?」
「大丈夫だよ。もう体調のほうも良くなったし、心配してくれてありがとう」
「蒼が大丈夫だったらいいの・・・・・・テヘヘ」
咲良が照れた顔をして頭を掻くポーズをする。
咲良は優しいな。可愛いし。クラスで人気があるのもわかるよ。
芽衣と莉子が僕達の席にやってきた。芽衣がにっこりと僕に笑う。
「この間から言うと思ってたんだけど、蒼大って髪型を変えたのね。とても似合っていて、可愛い。男の子とは思えないよ。」
「フン、男子なのに、女子よりも可愛いなんて許せないわ」
今日も莉子は絶好調でご機嫌が斜めなようだね。いつもキツイ言葉をありがとう。
「今日はあんたに用事があるの、放課後に付き合いなさいよ」
莉子が僕に用事?今までそんなことなかったぞ。別に放課後は何もないからいいけど。
「別にいいけど。莉子と2人きりなの?」
「なぜ、あんたと私の2人きりなのよ。芽衣も一緒よ」
「あれ?咲良は一緒じゃないの?」
咲良の顔を見ると、少し俯いている。
「私は今日はダメなの、お母さんが出かけちゃうから。咲の面倒を見ないといけないの。あ~一緒に行けたら良かったな~」
「というわけで私達2人よ。蓮達は呼ばなくていいからね。あんた1人で来なさいよ」
なぜ蓮達を呼んではいけないんだろう。僕1人に話をしたいことでもあるのかな。
「わかった。僕1人ね。」
莉子は頷くと、芽衣と一緒に僕から離れていった。
午前中の授業は問題なく終わった。そして、瑛太、蓮、悠の3人と一緒にお弁当を持って食堂へ向かう。いつものように僕が席取りで、3人は食券を買いに行った。
僕が1人で座っていると隣に誰かが座った。隣を振り向くと、藤野香織が冷たい視線で僕を見ている。
「こんにちは、蒼大くん、昨日は妙なところでお会いしたわね」
「そうだね。僕もスーパーで君と会うとは思わなかったよ」
「お兄様が私の料理を食べたがるから仕方なくよ。それよりも今日の放課後、空いてるかしら?」
「今日の放課後は先約が入ってるから無理かな」
「では、昼休み、食事が済んだら、生徒会室まで来てちょうだい」
藤野香織のことは苦手なんだよな。瑞希姉ちゃんのことを目の敵にしてるし、なるべく近寄りたくないんだけど。
「・・・・・・」
「絶対に来るのよ。もし来なかったら休憩時間に、あなたの教室に行くから」
そう言って、藤野香織は席を立って、歩いていった。歩いていく先を見ると、藤野健也が座っている席に向かっている。
それよりも、蓮達は遅いな~と思って周りを見回すと、蓮達が別の場所で日替わり定食を食べているのが見える。僕と目が合った瑛太が僕に手を振る。席を立って、瑛太達が座っている席に座り直した。
「なぜ、僕が席を取っていたのに、別の場所で食べてるんだよ」
「だって、藤野香織がいただろう。僕は彼女のことが苦手なんだよ」
瑛太が口を尖らせる。
「俺は苦手じゃないよ~。美少女の近くに座りたかったな。」
「お前はそればっかりだな。そんなに女子が好きなら、1人の女性に絞ってアタックしろ」
蓮と悠が言い合いをしている。
弁当を広げて、おかずを口の中へ放り込む。早く食べて生徒会室へ行かないと、教室に乗り込まれる。
「藤野香織は蒼大にいったい、どんな用事だったんだ?」
悠が不思議そうな顔で聞いてくる。僕は昼休みに生徒会室に呼び出されたことを説明した。悠は眉根を寄せて、腕組をして、難しい顔をする。
「俺も瑛太と一緒で藤野香織のことは好かない。だから気をつけろよ」
そうだね。何を言われるかわからないから、悠のいう通り、気を付けることにしよう。
弁当を早く食べ終わって、悠達よりも先に食堂を出た。そして生徒会室へ行く。生徒会室のドアをノックすると、中から「入って」という藤野香織の声が聞こえてきた。
ドアを開けて、生徒会室の中に入ると、藤野香織が1人だけ席に座って紅茶を飲んでいた。ドアを閉めて、机を挟んだ対面の椅子に座る。
「あなた、随分と瑞希先輩に可愛がられているようだけど、あなた達は付き合ってるの?」
僕と瑞希姉ちゃんが付き合ってるって。それはない。僕が一方的にお世話されているだけだから。
「ううん。付き合ってないよ。瑞希姉ちゃんが僕の世話をしてくれてるんだ。家が隣で、幼馴染だから」
「ふう~ん。それにしては瑞希先輩に世話の焼きようが、随分と熱心なようだけど」
何を言いたいんだろう。全く意図が読めない。
「・・・・・・」
「あなたも噂ぐらいは聞いたことがあると思うけど、私の兄様が瑞希先輩にアプローチをしているという噂」
それは知ってる。あんまり気持ちのいい噂じゃないけど。
「・・・・・・」
「あの噂は本当なの。お兄様は中学の頃から瑞希先輩のことが好きで、瑞希先輩にアプローチをしているわ。瑞希先輩はお兄様にからかわれてると思っているらしくて、お兄様のことを相手にしてないけど」
やっぱり藤野健也は瑞希姉ちゃんのことが好きなのか。すっごく嫌だな。
「私はお兄様を軽んじている瑞希先輩のことが嫌いなの。だから瑞希先輩とお兄様が付き合うなんて許せない」
おお、そこだけは意見が一致したぞ。
「私はお兄様のことを尊敬して愛しています。兄妹の壁など越えて、1人の男性として愛しています」
藤野香織が頬を赤らめて、頬に手を当てる。相当なブラコンだな。
「あなたはどうなの?瑞希先輩のことを愛してるの?」
僕が瑞希姉ちゃんのことを・・・・・・愛してる?どういう意味の愛してるだろうか?
「どういう意味かな?」
「あなたは、瑞希先輩と付き合いたいと思っているかと聞いたのよ」
僕と瑞希姉ちゃんが彼氏・彼女として付き合う。そんなこと、考えたこともなかった。
「そんなこと考えたこともなかったよ。瑞希姉ちゃんのことは大好きだけど」
「では考えて。あなたと瑞希先輩が付き合うことになれば、お兄様は瑞希先輩を諦めるしかないですもの。そうなれば、お兄様は私だけのもの」
はぁ、何を言ってんだ。やっぱり少し、ブラコン過ぎて、ぶっ飛んでるな。
「だから、あなたには瑞希先輩と付き合ってほしいの。お兄様と瑞希先輩が付き合ってもいいの?」
それはよくない。藤野健也と瑞希姉ちゃんが付き合うなんて、考えるだけでも嫌だ。
「2人には付き合ってほしくないよ。でも、僕が瑞希姉ちゃんの彼氏になるなんて考えたこともなかった」
「それはあなたがまだ、お子様だからよ。好きな女子がいたら、付き合いたくなるのが普通じゃない」
僕が子供?そうかもしれない。だって彼女いない歴=年齢だから。今まで付き合いたい女性もいなかったし。
「・・・・・・」
「あなたの心の成長を待ってる時間はないの。今すぐ、瑞希先輩と付き合いなさい」
それって、人に命令されてするもんじゃないと思うけど・・・・・・
「・・・・・・」
「あなたは瑞希先輩のことをもっと考えないとダメよ。そうすれば答えが出てくるはずよ」
瑞希姉ちゃんとのことを考える。ただ、お世話されている幼馴染のお姉ちゃんではダメなんだな。瑞希姉ちゃんがどう考えているか考える必要があるって言ってるんだな。それはそうかもしれないな。
「少し、瑞希姉ちゃんの気持ちを考えてみるよ」
「そうしなさい。今日は時間もないし、ここまでにしておきましょう。私は、あなたと瑞希先輩が付き合うことには大賛成よ。そのためには協力を惜しまないわ。これからは香織と呼んでいいわよ」
「わかった。それじゃあ、僕のことも蒼大って呼んでよ。」
「そうしましょう」
僕は席を立って、生徒会室を出た。香織が言っていた「もっと瑞希先輩のことを考えなさい」という言葉が頭の中で何回も思い出される。瑞希姉ちゃんの気持ちを知りたいな。僕のことどう思っているんだろう。今までは可愛い弟分と思ってくれていたと思ってたけど、それは僕が勝手に思っていただけで、瑞希姉ちゃんに聞いたこと、なかったな~。でも面と向かって聞く勇気なんかないよ。どうしよう~。
教室の自分の席に座った時に、昼休憩が終わるチャイムが鳴った。午後の授業は上の空だった。瑞希姉ちゃんが僕のことを、どう思っているのか気になって仕方がなかった。そんなことを考えている間に放課後になった。
莉子と芽衣が教室のドアのところで待っている。僕はすごすごと席を立って、鞄を持って、莉子達の元へ向かった。莉子達は下校している間、何も話しかけてこない。重苦しい雰囲気が漂う。
「莉子、何の話があるのか、教えてくれてもいいじゃないか。今は誰もいないんだし」
芽衣が優しい目で俺に微笑む。
「もう少ししたら喫茶店がありますから、そこでお話をしましょう」
あくまで今は話す気がないようだ。僕は莉子達の後ろを歩いて、喫茶店の中へ入った。窓際に4人席が空いていた。
莉子と芽衣が隣同士で座り、僕は対面の席に座った。それぞれに飲み物を注文する。僕はアイスミルクティーを頼んだ。
「今日、蒼大を呼び出したのは咲良のことよ」
咲良のこと?なんのことだ?
「鈍感な蒼大にはわからないと思ったから呼び出したのよ」
鈍感って言いすぎじゃないかな。莉子。
「はっきりと言うはね。咲良は蒼大ことを気に入っていて、蒼大のことを気にしてるの。蒼大はそのことを知ってる?」
確かに咲良とは仲良くなったよ。友達にもなった。家にも勉強を教えに行った。でもそれは友達だからだと思っていた。
「・・・・・・」
「あれでも、一生懸命に咲良はあなたにアタックしてるのよ。恥ずかしがり屋の咲良が、健気にもアタックしてるの」
そうだったのか、全く知らなかったよ。
「・・・・・・」
「私としては不本意だけど、咲良には幸せになってもらいたいの。だっから蒼大、真剣に考えて」
莉子が頬を膨らませて、顔を横へ向ける。なぜか頬がピンク色に染まっている。
芽衣がブラックコーヒーを一口飲んで、優しい口調で言葉を紡ぐ。
「私は蒼大と咲良ってお似合いだと思うの。だから今日、莉子から話を聞いて付き添ってきたの。咲良は可愛い子よ。蒼大も少しは咲良のことを考えてあげて。そして咲良に優しくしてあげてね」
咲良が僕のことを好き、その言葉が僕の中で繰り返される。僕はどうすればいいんだろう。
「今のことを聞いたからって、咲良のこと無視したり、咲良と距離を取ったりしたら、許さないからね」
莉子が僕を睨みつける。
咲良は良い子だし、可愛いし、そんなことはしないよ。
芽衣が目を伏せる。その姿は少し色っぽい。
「咲良の気持ちは伝えたわ。後は蒼大が咲良のためにどうするか、真剣に考えてね。私達は2人が仲良く付き合ってくれることを祈ってるわ」
そんなこと急に言われても困るよ。どうすればいいんだろう。
「今日の話はここまでよ。咲良のことで何か相談することがあれば、いつでも私達2人に相談すればいいわ」
莉子がミックスジュースを飲み干して、ストローを僕のほうへ向けて言い放つ。
僕達は飲み物を飲み終えたので、喫茶店を後にした。2人とは喫茶店を出たところで分かれた。
僕は1人で歩道を歩いて、トボトボと帰る。
香織からは瑞希姉ちゃんのことを考えて、瑞希姉ちゃんと付き合いなさいと言われるし、莉子達からは咲良のことを考えて、咲良と付き合ってと言われるし、僕は一体、どうすればいいんだろう。
僕は悩みながら家に帰った。家には瑞希姉ちゃんがいて、僕が帰ってくるとにっこりと笑ってくれた。
「今日は少し遅かったのね。何してたのかしら?」
「ちょっと莉子と芽衣から呼び出されて、喫茶店に行ってた」
「そうなんだ。女子2人から呼び出されて、喫茶店に行くなんて、お姉ちゃん、ちょっと妬いちゃうな」
え~、そんなので焼きもち妬かれちゃうの。
「別にそんな、何もないから。ちょっと相談されていただけだから。何も2人とは関係ないよ、2人はただの友達」
「わかったわよ。少しからかっただけなんだけど。蒼ちゃんには通じなかったみたいだね」
焼きもちも冗談なの。瑞希姉ちゃんは僕のこと本当はどう思っているんだろう。僕は瑞希姉ちゃんのことを、本当はどう思ってるんだろう。きちんと考えなくちゃ。
「今から、夕食の用意をするわね。蒼ちゃんは2階にあがって、着替えてきたら」
そういえば、まだ着替えていなかった。僕は2階の自分の部屋へいき、私服に着替えて、制服をクローゼットに片付けて、鞄を机の上に置いて、1階へ降りて、台所のテーブルに座った。
夕食を楽しく作っている瑞希姉ちゃんの後ろ姿を見る。僕にとっては瑞希姉ちゃんは大事な人だ。それは変わらない。瑞希姉ちゃんがいなくなると思うだけで、胸が苦しくなって悲しい気持ちになる。
でも、それが恋心かどうかわからない。ただ、僕が寂しくて、思っているだけなのかもしれない。瑞希姉ちゃんの気持ちを知るよりも、自分の本当の気持ちに気付くことのほうが大事だと思う。咲良のこともある。僕はそろそろ、自分の本当の気持ちを知る必要があると思う。
僕は瑞希姉ちゃんを、そして咲良を、本当はどう思っているんだろう。それを知ることが大事なような気がする。
「さ~夕食の準備ができたわよ。蒼ちゃんがお腹が空いているなら、夕食にしちゃうけど、どうする?」
瑞穂姉ちゃんは僕のほうを振り返るとふわりとした優しい笑顔を僕に向けた。
休憩時間に咲良から僕に声をかけてきた。
「昨日は大丈夫だったの?顔を青くして、家に帰っていったけど?」
「大丈夫だよ。もう体調のほうも良くなったし、心配してくれてありがとう」
「蒼が大丈夫だったらいいの・・・・・・テヘヘ」
咲良が照れた顔をして頭を掻くポーズをする。
咲良は優しいな。可愛いし。クラスで人気があるのもわかるよ。
芽衣と莉子が僕達の席にやってきた。芽衣がにっこりと僕に笑う。
「この間から言うと思ってたんだけど、蒼大って髪型を変えたのね。とても似合っていて、可愛い。男の子とは思えないよ。」
「フン、男子なのに、女子よりも可愛いなんて許せないわ」
今日も莉子は絶好調でご機嫌が斜めなようだね。いつもキツイ言葉をありがとう。
「今日はあんたに用事があるの、放課後に付き合いなさいよ」
莉子が僕に用事?今までそんなことなかったぞ。別に放課後は何もないからいいけど。
「別にいいけど。莉子と2人きりなの?」
「なぜ、あんたと私の2人きりなのよ。芽衣も一緒よ」
「あれ?咲良は一緒じゃないの?」
咲良の顔を見ると、少し俯いている。
「私は今日はダメなの、お母さんが出かけちゃうから。咲の面倒を見ないといけないの。あ~一緒に行けたら良かったな~」
「というわけで私達2人よ。蓮達は呼ばなくていいからね。あんた1人で来なさいよ」
なぜ蓮達を呼んではいけないんだろう。僕1人に話をしたいことでもあるのかな。
「わかった。僕1人ね。」
莉子は頷くと、芽衣と一緒に僕から離れていった。
午前中の授業は問題なく終わった。そして、瑛太、蓮、悠の3人と一緒にお弁当を持って食堂へ向かう。いつものように僕が席取りで、3人は食券を買いに行った。
僕が1人で座っていると隣に誰かが座った。隣を振り向くと、藤野香織が冷たい視線で僕を見ている。
「こんにちは、蒼大くん、昨日は妙なところでお会いしたわね」
「そうだね。僕もスーパーで君と会うとは思わなかったよ」
「お兄様が私の料理を食べたがるから仕方なくよ。それよりも今日の放課後、空いてるかしら?」
「今日の放課後は先約が入ってるから無理かな」
「では、昼休み、食事が済んだら、生徒会室まで来てちょうだい」
藤野香織のことは苦手なんだよな。瑞希姉ちゃんのことを目の敵にしてるし、なるべく近寄りたくないんだけど。
「・・・・・・」
「絶対に来るのよ。もし来なかったら休憩時間に、あなたの教室に行くから」
そう言って、藤野香織は席を立って、歩いていった。歩いていく先を見ると、藤野健也が座っている席に向かっている。
それよりも、蓮達は遅いな~と思って周りを見回すと、蓮達が別の場所で日替わり定食を食べているのが見える。僕と目が合った瑛太が僕に手を振る。席を立って、瑛太達が座っている席に座り直した。
「なぜ、僕が席を取っていたのに、別の場所で食べてるんだよ」
「だって、藤野香織がいただろう。僕は彼女のことが苦手なんだよ」
瑛太が口を尖らせる。
「俺は苦手じゃないよ~。美少女の近くに座りたかったな。」
「お前はそればっかりだな。そんなに女子が好きなら、1人の女性に絞ってアタックしろ」
蓮と悠が言い合いをしている。
弁当を広げて、おかずを口の中へ放り込む。早く食べて生徒会室へ行かないと、教室に乗り込まれる。
「藤野香織は蒼大にいったい、どんな用事だったんだ?」
悠が不思議そうな顔で聞いてくる。僕は昼休みに生徒会室に呼び出されたことを説明した。悠は眉根を寄せて、腕組をして、難しい顔をする。
「俺も瑛太と一緒で藤野香織のことは好かない。だから気をつけろよ」
そうだね。何を言われるかわからないから、悠のいう通り、気を付けることにしよう。
弁当を早く食べ終わって、悠達よりも先に食堂を出た。そして生徒会室へ行く。生徒会室のドアをノックすると、中から「入って」という藤野香織の声が聞こえてきた。
ドアを開けて、生徒会室の中に入ると、藤野香織が1人だけ席に座って紅茶を飲んでいた。ドアを閉めて、机を挟んだ対面の椅子に座る。
「あなた、随分と瑞希先輩に可愛がられているようだけど、あなた達は付き合ってるの?」
僕と瑞希姉ちゃんが付き合ってるって。それはない。僕が一方的にお世話されているだけだから。
「ううん。付き合ってないよ。瑞希姉ちゃんが僕の世話をしてくれてるんだ。家が隣で、幼馴染だから」
「ふう~ん。それにしては瑞希先輩に世話の焼きようが、随分と熱心なようだけど」
何を言いたいんだろう。全く意図が読めない。
「・・・・・・」
「あなたも噂ぐらいは聞いたことがあると思うけど、私の兄様が瑞希先輩にアプローチをしているという噂」
それは知ってる。あんまり気持ちのいい噂じゃないけど。
「・・・・・・」
「あの噂は本当なの。お兄様は中学の頃から瑞希先輩のことが好きで、瑞希先輩にアプローチをしているわ。瑞希先輩はお兄様にからかわれてると思っているらしくて、お兄様のことを相手にしてないけど」
やっぱり藤野健也は瑞希姉ちゃんのことが好きなのか。すっごく嫌だな。
「私はお兄様を軽んじている瑞希先輩のことが嫌いなの。だから瑞希先輩とお兄様が付き合うなんて許せない」
おお、そこだけは意見が一致したぞ。
「私はお兄様のことを尊敬して愛しています。兄妹の壁など越えて、1人の男性として愛しています」
藤野香織が頬を赤らめて、頬に手を当てる。相当なブラコンだな。
「あなたはどうなの?瑞希先輩のことを愛してるの?」
僕が瑞希姉ちゃんのことを・・・・・・愛してる?どういう意味の愛してるだろうか?
「どういう意味かな?」
「あなたは、瑞希先輩と付き合いたいと思っているかと聞いたのよ」
僕と瑞希姉ちゃんが彼氏・彼女として付き合う。そんなこと、考えたこともなかった。
「そんなこと考えたこともなかったよ。瑞希姉ちゃんのことは大好きだけど」
「では考えて。あなたと瑞希先輩が付き合うことになれば、お兄様は瑞希先輩を諦めるしかないですもの。そうなれば、お兄様は私だけのもの」
はぁ、何を言ってんだ。やっぱり少し、ブラコン過ぎて、ぶっ飛んでるな。
「だから、あなたには瑞希先輩と付き合ってほしいの。お兄様と瑞希先輩が付き合ってもいいの?」
それはよくない。藤野健也と瑞希姉ちゃんが付き合うなんて、考えるだけでも嫌だ。
「2人には付き合ってほしくないよ。でも、僕が瑞希姉ちゃんの彼氏になるなんて考えたこともなかった」
「それはあなたがまだ、お子様だからよ。好きな女子がいたら、付き合いたくなるのが普通じゃない」
僕が子供?そうかもしれない。だって彼女いない歴=年齢だから。今まで付き合いたい女性もいなかったし。
「・・・・・・」
「あなたの心の成長を待ってる時間はないの。今すぐ、瑞希先輩と付き合いなさい」
それって、人に命令されてするもんじゃないと思うけど・・・・・・
「・・・・・・」
「あなたは瑞希先輩のことをもっと考えないとダメよ。そうすれば答えが出てくるはずよ」
瑞希姉ちゃんとのことを考える。ただ、お世話されている幼馴染のお姉ちゃんではダメなんだな。瑞希姉ちゃんがどう考えているか考える必要があるって言ってるんだな。それはそうかもしれないな。
「少し、瑞希姉ちゃんの気持ちを考えてみるよ」
「そうしなさい。今日は時間もないし、ここまでにしておきましょう。私は、あなたと瑞希先輩が付き合うことには大賛成よ。そのためには協力を惜しまないわ。これからは香織と呼んでいいわよ」
「わかった。それじゃあ、僕のことも蒼大って呼んでよ。」
「そうしましょう」
僕は席を立って、生徒会室を出た。香織が言っていた「もっと瑞希先輩のことを考えなさい」という言葉が頭の中で何回も思い出される。瑞希姉ちゃんの気持ちを知りたいな。僕のことどう思っているんだろう。今までは可愛い弟分と思ってくれていたと思ってたけど、それは僕が勝手に思っていただけで、瑞希姉ちゃんに聞いたこと、なかったな~。でも面と向かって聞く勇気なんかないよ。どうしよう~。
教室の自分の席に座った時に、昼休憩が終わるチャイムが鳴った。午後の授業は上の空だった。瑞希姉ちゃんが僕のことを、どう思っているのか気になって仕方がなかった。そんなことを考えている間に放課後になった。
莉子と芽衣が教室のドアのところで待っている。僕はすごすごと席を立って、鞄を持って、莉子達の元へ向かった。莉子達は下校している間、何も話しかけてこない。重苦しい雰囲気が漂う。
「莉子、何の話があるのか、教えてくれてもいいじゃないか。今は誰もいないんだし」
芽衣が優しい目で俺に微笑む。
「もう少ししたら喫茶店がありますから、そこでお話をしましょう」
あくまで今は話す気がないようだ。僕は莉子達の後ろを歩いて、喫茶店の中へ入った。窓際に4人席が空いていた。
莉子と芽衣が隣同士で座り、僕は対面の席に座った。それぞれに飲み物を注文する。僕はアイスミルクティーを頼んだ。
「今日、蒼大を呼び出したのは咲良のことよ」
咲良のこと?なんのことだ?
「鈍感な蒼大にはわからないと思ったから呼び出したのよ」
鈍感って言いすぎじゃないかな。莉子。
「はっきりと言うはね。咲良は蒼大ことを気に入っていて、蒼大のことを気にしてるの。蒼大はそのことを知ってる?」
確かに咲良とは仲良くなったよ。友達にもなった。家にも勉強を教えに行った。でもそれは友達だからだと思っていた。
「・・・・・・」
「あれでも、一生懸命に咲良はあなたにアタックしてるのよ。恥ずかしがり屋の咲良が、健気にもアタックしてるの」
そうだったのか、全く知らなかったよ。
「・・・・・・」
「私としては不本意だけど、咲良には幸せになってもらいたいの。だっから蒼大、真剣に考えて」
莉子が頬を膨らませて、顔を横へ向ける。なぜか頬がピンク色に染まっている。
芽衣がブラックコーヒーを一口飲んで、優しい口調で言葉を紡ぐ。
「私は蒼大と咲良ってお似合いだと思うの。だから今日、莉子から話を聞いて付き添ってきたの。咲良は可愛い子よ。蒼大も少しは咲良のことを考えてあげて。そして咲良に優しくしてあげてね」
咲良が僕のことを好き、その言葉が僕の中で繰り返される。僕はどうすればいいんだろう。
「今のことを聞いたからって、咲良のこと無視したり、咲良と距離を取ったりしたら、許さないからね」
莉子が僕を睨みつける。
咲良は良い子だし、可愛いし、そんなことはしないよ。
芽衣が目を伏せる。その姿は少し色っぽい。
「咲良の気持ちは伝えたわ。後は蒼大が咲良のためにどうするか、真剣に考えてね。私達は2人が仲良く付き合ってくれることを祈ってるわ」
そんなこと急に言われても困るよ。どうすればいいんだろう。
「今日の話はここまでよ。咲良のことで何か相談することがあれば、いつでも私達2人に相談すればいいわ」
莉子がミックスジュースを飲み干して、ストローを僕のほうへ向けて言い放つ。
僕達は飲み物を飲み終えたので、喫茶店を後にした。2人とは喫茶店を出たところで分かれた。
僕は1人で歩道を歩いて、トボトボと帰る。
香織からは瑞希姉ちゃんのことを考えて、瑞希姉ちゃんと付き合いなさいと言われるし、莉子達からは咲良のことを考えて、咲良と付き合ってと言われるし、僕は一体、どうすればいいんだろう。
僕は悩みながら家に帰った。家には瑞希姉ちゃんがいて、僕が帰ってくるとにっこりと笑ってくれた。
「今日は少し遅かったのね。何してたのかしら?」
「ちょっと莉子と芽衣から呼び出されて、喫茶店に行ってた」
「そうなんだ。女子2人から呼び出されて、喫茶店に行くなんて、お姉ちゃん、ちょっと妬いちゃうな」
え~、そんなので焼きもち妬かれちゃうの。
「別にそんな、何もないから。ちょっと相談されていただけだから。何も2人とは関係ないよ、2人はただの友達」
「わかったわよ。少しからかっただけなんだけど。蒼ちゃんには通じなかったみたいだね」
焼きもちも冗談なの。瑞希姉ちゃんは僕のこと本当はどう思っているんだろう。僕は瑞希姉ちゃんのことを、本当はどう思ってるんだろう。きちんと考えなくちゃ。
「今から、夕食の用意をするわね。蒼ちゃんは2階にあがって、着替えてきたら」
そういえば、まだ着替えていなかった。僕は2階の自分の部屋へいき、私服に着替えて、制服をクローゼットに片付けて、鞄を机の上に置いて、1階へ降りて、台所のテーブルに座った。
夕食を楽しく作っている瑞希姉ちゃんの後ろ姿を見る。僕にとっては瑞希姉ちゃんは大事な人だ。それは変わらない。瑞希姉ちゃんがいなくなると思うだけで、胸が苦しくなって悲しい気持ちになる。
でも、それが恋心かどうかわからない。ただ、僕が寂しくて、思っているだけなのかもしれない。瑞希姉ちゃんの気持ちを知るよりも、自分の本当の気持ちに気付くことのほうが大事だと思う。咲良のこともある。僕はそろそろ、自分の本当の気持ちを知る必要があると思う。
僕は瑞希姉ちゃんを、そして咲良を、本当はどう思っているんだろう。それを知ることが大事なような気がする。
「さ~夕食の準備ができたわよ。蒼ちゃんがお腹が空いているなら、夕食にしちゃうけど、どうする?」
瑞穂姉ちゃんは僕のほうを振り返るとふわりとした優しい笑顔を僕に向けた。