僕はリビングのソファで目を覚ました。目を開けると瑞希姉ちゃんの顔が真上にあった。どうも僕は瑞希姉ちゃんに膝枕をされているようだ。何がおこったんだろう・・・・・・あ、僕は脱衣所へ行って、瑞希姉ちゃんの裸をみちゃったんだ・・・・・・なんてことをしてしまったんだろう。瑞希お姉ちゃんの顔を見れないよ。


「蒼ちゃん、大丈夫。ちょっと刺激が強すぎたかな。ずいぶん落ち着いたかな?」


「うん、ありがとう。僕が起きるまで、膝枕してくれていたの?」


 けっこう、時間が経ってると思うけど、ずーっと膝枕してくれてたのかな?


「そうだよ。だって学校から帰ってきた時の蒼ちゃんって、顔が真っ青で、体が怯えたように震えていたんだもん。思わず、自分が裸なのも忘れて抱き着いちゃってごめんね。大丈夫?」


「うん。それよりなぜ、瑞希姉ちゃんが家にいたの?」


「それはね。高校3年生だけ今日は5時間目までの授業だったの。だから早くに戻ってきて、お風呂の掃除をする次いでにシャワーを浴びていたら、蒼ちゃんが帰ってきて、ビックリしたよ。」


 そうだったんだ。高3だけ短縮授業だったんだ。それじゃあ、僕が知らないのも無理ないや。


 僕は膝枕から起き上がって、瑞希姉ちゃんの隣に座る。


「今日は一体、どうしたの。学校で何があったの。お姉ちゃんに言ってちょうだい」


 まず、僕は自分の成績が掲示板に乗ったことを話した。学年で18位になったことを説明する。すると瑞希姉ちゃんは喜んで僕に抱き着いてきた。


 これは僕の実力ではなくて、瑞希姉ちゃんの協力があったから、こんな成績が取れたと言うと、瑞希姉ちゃんはにっこりと笑って「それは違うよ。だってテストを受けたのは蒼ちゃん自身なんだから、蒼ちゃんの実力だよ」と言ってくれた。凄く嬉しかった。


 その後で、昼休みに藤野兄妹に会ったことを話した。瑞希姉ちゃんの顔をが少し曇る。


 そして、藤野兄妹と瑞希姉ちゃんのことで色々な噂があることを蓮、悠、瑛太から聞いたことを話した。


「もう、悠も蓮も瑛太も口が軽すぎるよ。そんなこと、蒼ちゃんに言う必要ないじゃない」


 瑞希姉ちゃんは3人に少し怒っているようだ。僕は3人のせいじゃないと説明する。藤野兄妹と会ってしまった以上、僕は誰かに藤野兄妹のことを聞いていたはずだから。


 藤野健也が瑞希姉ちゃんにアプローチをしていることを聞いて、気が動転したことを話す。

「藤野健也先輩って学校一のイケメンで、スポーツ万能で、学年成績も毎回2位なんだってね。完璧だよね。やっぱり、そんな男子からアプローチされたら、瑞希姉ちゃんも嬉しい?」


「ん~健也くんは私に一生懸命にアプローチしてるって、皆に言ってるけど、それほどのアプローチなんてされてないわよ。それに私、健也くんのこと、元・生徒副会長としか見てないから、男子としては興味ないかな」


 瑞希姉ちゃんの言葉に僕は驚いた。学校NO1のイケメンだよ。誰でも意識するでしょう。


「だって、藤野健也先輩って、学校でNO1のイケメンだよ。高1~高3の女子まで憧れてる女子が沢山いるって聞いたよ。瑞希姉ちゃんが憧れたりしないの?」


「確かにイケメンだし、優しいし、女子の扱いは上手いし、モテると思うわよ。でも、ただそれだけかな」


 それじゃあ、アプローチされて、密に瑞希姉ちゃんが喜んでいるということはなかったんだ。よかった。


「学校に広まっている噂も、いつの間にか広まった噂だし、私の知らないところでヒソヒソと噂されていることだから、私は別に気にしてないわよ」


 そうだったんだ。瑞希姉ちゃん、全く噂を気にしてないんだ。


「でも、藤野健也先輩は、なにかよくわかんないけど、僕に「僕も負けないからね」って言ったんだ。それが何を意味してるのかわからないけど、藤野香織さんには「私も瑞希先輩に負けない」って言われた」


「健也がなぜ、そんなことを言ったのかはわからないけど、香織ちゃんが私をライバル視しているのは事実よね。私が生徒会長していた時から、香織ちゃんは生徒会の書記をしていただんだけど、ことあるごとに私に噛みついてきていたから」


 へ~、瑞希姉ちゃんが生徒会長の時から、藤野香織は生徒会の書記をしてたんだ。なるほどって感じだな。


「それで蒼ちゃんはどうして、その噂を聞いて、顔を青くして、学校から早くに帰ってきたの?そのほうが瑞希姉ちゃんは興味があるな。」


 それは瑞希姉ちゃんと藤野健也が付き合ったら、どうしようと思ったからで、そんなことになったら、藤野健也に瑞希姉ちゃんを取れてると思って、もう僕の周りから瑞希姉ちゃんが消えちゃうと思って、焦ったからだ。でもそんな恥ずかしいことを瑞希姉ちゃん本人に言えないよ~。


 僕は目を逸らせた。


 すると僕の顔を両手で挟んで顔を逃がさないようにして、瑞希姉ちゃんが瞳の奥まで覗いてくる。


「私と健也が付き合うかもしれないと思って、心配になったんでしょう」


「・・・・・・」


「私が健也と付き合ったら、私が蒼ちゃんの傍から消えると思ったんでしょう」


 瑞希姉ちゃんはまるで透視をしてくるように僕を見てくる。


「蒼ちゃんは私が傍からいなくなったらイヤ?」


「うん」


「蒼ちゃんは私と健也が付き合うのはイヤ?」


「うん」


「でも、お姉ちゃんが遠くの大学に行ったりしたら、蒼ちゃんの傍にいられないんだよ。それは良いの?」


 考えてもみなかった。今年、瑞希姉ちゃんは高3だ。来年の4月には大学生になる。そうなれば、この街からいなくなる。僕の周りから、瑞穂姉ちゃんが消えちゃう。いいようのない不安が襲う。


「・・・・・・」


「蒼ちゃん、それがどんな気持ちなのかわかる?」


「わからない。初めてのことだから、わからない」


「そう」


 瑞希姉ちゃんが優しく微笑んで僕の首に手を巻き付けて、僕を抱きかかえる。耳元でそっとささやく。


『蒼ちゃん、いっぱい悩んで、答えを見つけてね。その不安や焦りが一体、何なのか。蒼ちゃんが答えを見つけてね。お姉ちゃんはそれまで待ってるから。蒼ちゃんの傍にいるから。答えを見つけてね』


 僕の気持ちか~。どうして瑞希姉ちゃんが傍を離れると思っただけで、こんなに寂しいんだろう。なぜ、こんなに不安なんだろう。なぜ、こんなに悲しいんだろう。


 なぜ・・・・・・なぜ・・・・・・なぜ・・・・・・わからない。こんな気持ち初めてだ。


 瑞希姉ちゃんが僕を放すと、なぜか、瑞希姉ちゃんは涙を流していた。涙を流しながらにっこりと笑っている。


「私、蒼ちゃんに必要にされているんだね。私、蒼ちゃんに大事にされているんだね。そう思ったら嬉しくて、涙が止まらないの・・・・・・嬉しい。嬉しいよ」



 手に持っていたバスタオルを顔に当てって、瑞希姉ちゃんが泣き始めた。僕はどうしていいかわからなくて、瑞希姉ちゃんの背中をさすった。


 泣き終わたようで、瑞希姉ちゃんがバスタオルので顔を拭く。そしってふんわりとした優しい笑顔に戻った。


 瑞希姉ちゃんが抱き着いてくる。


「絶対に蒼ちゃんを放さないからね。蒼ちゃんの傍から離れないからね。蒼ちゃんの悲しむようなことしないから。蒼ちゃんを1人にしないから。これからも蒼ちゃんと楽しく暮らしていくんだもん」


 瑞希姉ちゃんがそう呟いた。僕の心の中に渦巻いていた黒い何かが、晴れていく。そして僕の心は軽くなって、明るくなった。やっぱり瑞希姉ちゃんは凄い。


 僕は明るくにっこり笑って答えた。


「さ~蒼ちゃんも帰ってきちゃったし、買い物に行って来なくちゃ」


「それだったら、僕も一緒に行くよ。荷物持ちぐらいできるし」


「わかったわ。蒼ちゃんに荷物は任せるわね」


 僕達は2階にいって、自分の部屋で私服に着替えて、1階に降りると、瑞希姉ちゃんと一緒に玄関を出て、鍵を閉める。


 瑞希姉ちゃんと手を繋いでスーパーに向かう。


「今日は、お祝いしないといけないわね。蒼ちゃんの成績、学年で18位だったんだもんね」


「ありがとう。瑞希姉ちゃんのおかげだよ。僕1人じゃ、無理だったもん」


「また、同じことを言ってるよ・・・・・・ウフフ」


 僕は恥ずかしくなって、髪の毛を掻いた。


 スーパーに付き、僕は台車の上にスーパーのカゴを乗せて、瑞希姉ちゃんの後ろを歩く。


 瑞希姉ちゃんは野菜コーナーでも、鮮魚コーナーでも、お肉のコーナーでもポンポンと商品を入れていく。全く躊躇することがない。こんな雑な買い物の仕方で大丈夫なんだろうか。


「瑞希姉ちゃん、さっきから商品をポンポン入れてるけど、何を作るか考えてるの?」


「当たり前じゃない。きちんと考えてるわよ。今日は唐揚げ、明日はハンバーグ、明後日は焼き魚みたいに考えてるわ。今日はお祝いだから、唐揚げとハンバーグを一緒にいしようか考えているけど」


 唐揚げにハンバーグは僕の大好物だ。顔が自然とほころんでしまう。


 スーパーの中を2人で歩いていると、僕達を見ている2人組が前に立っている。藤野兄妹だ。藤野兄妹は無言のまま近寄ってくる。僕は瑞希姉ちゃんの服を掴む。


「よう瑞希、こんなところで会うなんてな。蒼大くんも一緒かい、妬きたくなるほど仲がいいな」


「瑞希先輩、ごきげんよう。スーパーで会うなんて奇遇ですね」


「健也に香織さん、本当にスーパーで会うなんて思ってもみなかったわ。2人はスーパーで仲良く兄妹デートなの?」


 瑞希姉ちゃんがにっこり笑って、藤野健也と藤野香織に話かけるが、藤野健也だけが爽やかな笑顔で笑っている。藤野香織は全然、目が笑っていない。


「兄妹でデートはないだろう。香織が今夜、夕食を作ってくれるというから、一緒に買い出しにきただけだよ」


 藤野香織が兄の藤野達也の服を引っ張る。頬がプクッと膨れている。ご機嫌斜めなようだ。


「君達2人はどうなんだい。2人で仲良くスーパーに来るなんて、まるで同棲しているみたいじゃないか。僕も瑞希とそんな関係になってみたかったよ」


「今日は蒼ちゃんが学年成績で18位になったお祝いよ。同棲だって。蒼ちゃん、嬉しいね」


 今、僕に話を振らないでよ。一瞬、藤野健也の目が鋭く、僕を睨んだじゃないか。やっぱり藤野健也は瑞希姉ちゃんのことが好きなんだ。


「瑞希、今度、僕のために何か料理を作ってくれると嬉しいんだけどな」


「私の料理は蒼ちゃん専属なの。あなたは可愛い妹の香織さんに作ってもらえばいいじゃない。香織さんの料理の腕も相当だって噂を聞いてるわよ」


 へ~、藤野香織って料理でも瑞希姉ちゃんと張り合ってるのかな。もし、そうだったら怖いな~。


「ああ、香織の料理は旨い。それは本当の話だ。たまに瑞希の料理が食べてみたいと思っただけだよ。蒼大くんの専属じゃあ、仕方ないね。僕達はこれで失礼するよ」


 藤野兄妹はスーパーの奥へと去っていった。すれ違いざまに藤野香織が僕を睨みつけていった。


 あの兄妹にだけは会いたくなかった。学校でも外でも会いたくない。


「蒼ちゃん、レジに並んで、支払いを済ませましょう」


 瑞希姉ちゃんと一緒にレジに並ぶ。いつも料理を作ってもらってるんだ。今日は僕が支払うぞ。


 レジで精算をして、僕は瑞希姉ちゃんより早くレジカウンターにお金を置いた。瑞希姉ちゃんがビックリしている。


「これぐらい、僕に払わせてよ。だって、いつも瑞希姉ちゃんに朝食もお弁当も夕食も作ってもらってるんだもん」


 僕達はカゴに入っている食材を持ってきた大きめのトートバックへ入れていく。トートバック2つは僕が持つ。かなりな重さだな。今日は僕が荷物係だ。頑張らないと。


 スーパーから出ると瑞希姉ちゃんが腕を絡ませてくる。僕は両手に荷物を持っているので、腕を避けることができない。


 暫く、そのまま2人で寄り添って歩く。


「藤野健也先輩はいつも瑞希姉ちゃんに、あんなことを言うの?」


「あんなことって?」


「料理を作ってくれ~だとか。他にも色々」


「そうね。健也は中学からの同級生なんだけど、いつもあんな風に言ってくるわね。からかってるんだと思って相手にしてないけど」


 それって、からったり、冗談で言ってるんじゃなくて、本気で瑞希姉ちゃんを口説こうとしてるじゃん。中学から藤野健也に口説かれ続けているから、瑞希姉ちゃん、冗談にしか思ってないんだ。


「僕は藤野健也先輩も藤野香織さんも嫌いだ」


 僕は憮然とした顔で呟いた。


「蒼ちゃん、もしかして、妬いてくれてるの。お姉ちゃんが口説かれて、妬いてくれてるの」


 なんでそんなに、嬉しそうににっこりして僕の顔を覗き込んでくるの。


「蒼ちゃんが焼きもちを妬いてくれるなんて嬉しいな。お姉ちゃんとっても嬉しい」


「・・・・・・」


 僕はやっぱり藤野健也が嫌いだ。藤野健也が、瑞希姉ちゃんを口説こうとしているのが許せない。


 これって焼きもちっていうのかな。僕にはよくわからない。僕が焼きもちを妬いているということは、どうことなんだろう。僕は瑞希姉ちゃんのこと、どう思っているんだろう。


 そんなことを考えながら、瑞希姉ちゃんを見ると、夕陽に染まった瑞希姉ちゃんはフワリと優しく僕に微笑んだ。


 夕暮れに染まる街中を2人、寄り添って家まで帰った。僕達の後ろには一つの長い影ができている。