って、癒されている場合ではなかった。
せっかく会えたんだから、傘を返さねば。

「傘、ありがとうございました。」

私は腕に掛けていた傘を胡桃さんへ差し出す。
すると胡桃さんはキョトンとした顔になって、「あー」と言いながら眉間を押さえた。

「そんなのいいのに。ビニ傘だから貰ってくれてもよかったんだよ。」

「いえいえ、そんな。とても助かりました。ありがとうございました。」

丁寧にお礼を言うと、胡桃さんは傘を受け取ってくれる。

「晴れてるのにわざわざ傘持ってきたの?」

「いつか会えるかなって思って。」

正直に言うと、胡桃さんはハッとした顔になって言う。

「もしかして晴れてても毎日傘持ってきてくれてたの?どうもありがとう。」

逆に丁寧にお礼を言われてしまって、私は言葉に詰まった。

この場合、“どういたしまして”は違う気がするし。
上手い返事をするのが難しい。