結局、人の流れから一度外れ、わたあめを売っている屋台へと並んだ。様々なキャラクターにパッケージされた大きな袋に、はち切れんばかりのわたあめが詰まっている。見た目に反して、わたあめの袋は当然軽く、しっかりと持っていないと人混みではどこかにいってしまいそうだ。何より、パッケージのキャラクターからも、年齢層低めがターゲットになっており、男としては彼女が持っているとしても少し恥ずかしい。
 佑香は袋を開けて、わたあめを一口サイズにちぎると、嬉しそうに口に運んだ。もう一口分をちぎると、それを俺の口元へと持ってくる。手で受け取ろうとすると、佑香に厳しい目つきで睨まれた。どうやら、そのまま食べるしかないらしい。佑香の手にあるわたあめの一欠片を、俺はパクリと口に入れた。口の中でわたあめは溶けて小さくなり、代わりに口の中一杯に香ばしさと甘さが広がる。わたあめを食べるのは実に数年ぶりだ。もともと甘いものは好きなだけに、懐かしい甘さに思わず破顔する。

「ねぇ、折角だからあれも買っていこうよ」

 わたあめの余韻に浸っていると、佑香が隣の屋台を指さして言った。見ると、わたあめの屋台に並んでいたパッケージのキャラクターに負けず劣らずのラインナップで、お面がズラリと並んでいる。

「うわー、あれはさすがに恥ずかしすぎる」

「えー、どうしてー? お祭りなんだから、まず形から入らないと。友也はただでさえ普段着なんだからさ!」

 そう言って、佑香は俺を無理やりお面屋の前に引っ張っていった。
 いざ、並んでいるお面を見てみると、キャラクターものの他に、縁日らしいキツネのお面も置いてある。佑香に言われて断れる気もしないので、これならばと思いキツネのお面を購入した。すると、佑香も同じものを手に取り、購入する。

「ね、付けて?」

「おう」

 佑香が、自分の買ったキツネのお面を俺に差し出しながら言う。俺はそれを受け取り、佑香の後ろに回って、佑香の頭の左側にお面を付けた。今度は佑香が俺のお面に手を伸ばしてくるので、それを佑香に手渡すと、佑香は俺と同じように後ろに回ってきて、お面を付けようとする。俺は軽くしゃがんで、佑香にお面を付けてもらった。

「これでちょっとはお祭りらしくなったね!」

 佑香は満足そうな笑顔で、俺の額に付けられたお面を撫でた。
 お面を買って、俺たちは元の人の流れの中に戻る。わたあめは人混みでなくさないように俺が預かり、手筒花火が見られる場所を目指す。

「さっきより人増えてない?」

「あと一時間もしたら手筒花火が始まるからな。みんな、それを見に集まってきてるんだろう」

 そんな会話をしながら、はぐれないようにさっきよりも佑香の手を握るのに自然と力がこもる。都会の通勤ラッシュの満員電車並みに、右も左も、前も後ろも、人ばかりで身動きが取れなくなってきていたのだ。このまま佑香とはぐれでもしたら、再会は難しいだろう。
 手筒花火を行う場所までは、まだ数百メートルほど距離があった。人の流れはほとんど止まってしまい、目的地に迎えずに立ち往生する。

「友也、これ諦めた方がいいんじゃない? 進まないよ」

「うーん、どうにかならんかなぁ……」

「あ! ちょっと待って! あれってもしかして」

 俺の斜め後ろの位置にいる佑香が何かに気がつき、慌てた声を上げる。

「ヤバいよ! 柚希たちがすぐ後ろまで来てる!」

「マジかよ。ちょっ、身動き取れないぞ」

「友也! お面!」

 佑香はそう言うと、俺の額に手を伸ばし、キツネのお面で俺の顔を隠した。佑香もすぐに自分の顔をキツネのお面で隠し、人混みに混ざってやり過ごす。手筒花火とは別方面への人の流れに乗って、柚希たちクラスメイトが俺たちのすぐ真後ろを通過した。緊張のあまり、思わず唾を飲み下す。一秒一秒がとても長く感じられた。

「はぁー、焦ったー。バレなくてよかったよ」

 佑香が先に声を上げる。

「ほんとだな。まさか、この人の多さで鉢合わせるなんて……」

 俺も、佑香に続いて、過ぎ去っていった柚希たちに安堵して声をあげた。まるで、ずっと息を止めていたかのように呼吸を久しく感じる。息をするのも忘れていたみたいだ。

「柚希たち、手筒花火じゃなくて、打ち上げ花火の方に向かってるね」

「あー、そうか。あっちは打ち上げ花火か」

 手筒花火の後、しばらく間を開けて、空がしっかり暗くなった頃、今度は打ち上げ花火が上がる。柚希たちは手筒花火を見ずに、打ち上げ花火がよく見える堤防沿いを目指して行ったのだろう。

「佑香、打ち上げ花火見たかったか?」

「そりゃあ見たいよ。見たいけど、柚希たちも向かってるし、多分他にも知り合いがいる可能性高そうだから、諦める」

 佑香の言い分はもっともだった。ただ、俺はこのお祭りの打ち上げ花火を見られる特等席を知っている。今からそこに向かえば、綺麗な打ち上げ花火を佑香に見せてやることが出来るだろう。だが、そのためには名物の手筒花火を諦める必要がある。

「まぁ、どちらにしてもこの人混みじゃあまともに見れないしな……」

「え? なんか言った?」

「いや、何も! 佑香、打ち上げ花火見に行くぞ!」

「えー! だって柚希たちにまた会うかもしれないよ」

「大丈夫だって。堤防とは反対方向だから!」

 そう言って、俺は佑香の手を引いて、今までの人の流れとは逆方向へと進み始める。佑香は俺とはぐれないように必死に俺の腕にしがみついてついてきた。