オレは、リゼットの上に馬乗りになる気は起きなかった。ラシェルの時は、そうしなければ服を着替えさせられなかったが、リゼットの場合にはベッドの横のスペースが空いている。イメージ通りの騎士のように、お姫様のリゼットの寝顔を見ながら、ベッドの横に立つ。

「さすがはリゼット、眠っていても隙を見せないぜ。服のボタンをしっかりと押さえて、ブラジャーとパンティーも無意識に防御している。ラシェルの時のようなポロリは、オレが脱がさなければ起こりえないな」

 オレは、彼女の寝相の良さに汗をかく。いくら女の子といっても、じっくり熟睡していれば、ヨダレやヘソ出しなどの普段は見られないような仕草をするはずだ。だが、リゼットはキッチリと服装を整えたまま眠っている。オレが触れた部分以外は、変わっていない。

 本当に、人形が飾ってあるかのような美しさだった。ただ、呼吸音と横隔膜の動きだけは普通の人間と同じように動いていた。オレが手を触れようものなら、ムクリと起き上がりそうなプレッシャーを感じる。

「はあ、はあ、はあ、落ち着け、オレ……。リゼットは熟睡している。オッパイを揉もうが、キスをしようが、脱がそうが起きるはずはない。勇気を出して、彼女の服を脱がすんだ。ドレスのまま眠っているから寝苦しいだろう。疚しい気持ちなんてあんまりないんだ」

 オレは、ごくりと唾を飲み込み、一度は触れた彼女の胸元へと手を伸ばす。オッパイに手を当てながら、ゆっくりと胸の青いリボンを外していくことにした。腕からでも彼女の柔らかいオッパイの感触が分かる。

「オレは、今は騎士なんだ。彼女の身を守る事を誓った英雄の騎士(ナイト)だ。それが、眠っているお姫様の体を弄ぶことなんてしてはいけないんだ。コレは、ただ服を着替えさせて、彼女に気持ち良く眠って貰うため……」

 オレは、彼女の服の青いリボンに手をかける。彼女の服は、ボタンで止めるタイプの物ではなく、ヒモとリボンで脱がせやすい雰囲気を感じさせるようなドレスだった。白と青いレース物で編み込まれており、かなり繊細な作りだった。

「コレは、軍服ワンピースではなさそうだな。ラフな格好とも言える。おそらく彼氏とのデートでオシャレして出掛けようとしたところを襲撃されたのだろう。襲撃してきた相手が、その彼氏だったとは可哀想な話だ。オレが、彼女の心を慰めてやらないと……」

 オレは、シュルリという音を立てて、青いリボンが解ける。わずか数秒で脱げてしまうほどのセクシーなタイプの衣装だった。この程度の防御力では、男が本気になったら簡単に無防備になってしまうだろう。オレは、この服装に疑問を感じていた。

「いくらなんでも弱過ぎる……。まさか……」

 オレの脳裏に、恐るべき考えが過ぎる。リゼット姫は今日、誰かに抱かれる予定があったのではないだろうか? 王族の服は、自分の主人とそういう関係を持つ時は、脱がしやすい服装にするというのを聞いた事がある。

「くう、オレのリゼットが誰かに抱かれていたかもしれないなんて……。想像さえもしたくない……。今、オレが彼女のファーストキスだけでも奪ってやる!」

 オレは、嫉妬の炎によって理性を失いかけていた。このままでは、彼女を悲しませる事になるだろう。こんな事になったのも、全ては彼女が脱がせやすい服を着ていたせいだ。それさえなければ、オレの理性が制御できなくなる事もなかった。

「好きだ、リゼット姫。このままオレの物になってくれ……」

 オレは、衝動的に彼女の服を脱がせる。スルリと彼女の上着がはだけて、白い素肌と水色のブラジャーが露わになる。オレがオッパイを揉んだことでズレたのだろう。ピンク色の乳首が可愛く顔を覗かせていた。

「おい、小僧、そこまでだ!」

 オレは、リゼットを襲おうと思った瞬間、謎の人物に両腕を掴まれていた。声のトーンから女性だという事は分かるが、冷たい凍るような手で握り締められていた。腕力は、男のオレでも勝てないほど強く、この世の者の存在ではない事を悟った。

「誰だ? オレとリゼットとの愛を邪魔する奴は?」

 オレは、凄んで両腕を掴んでいる奴を睨む。明らかに危ない存在を前にしているのだが、性欲が全開になった男も危険な存在なので自分の行為を正当化するのだ。一緒の部屋に入った時点で合意の上だったとか、お互いに愛し合っていたとウソを堂々と吐くのだ。

「ふう、一部始終見ていたぞ。しばらくは騎士として振る舞っていたから見逃してきたが、さすがにこれ以上は見過ごせん。私は、彼女に仕えるエレメントの1人、ウンディーネ。これ以上、リゼットに汚らわしい手を触れるというのならば、ここで氷漬けにしてやろう」

「ウンディーネ、だと? オレとリゼットとの恋を阻もうというのか? エレメントだろうと、人の恋路を邪魔する奴は許さん。オレの超絶スペル魔法で返り討ちにしてやる。喰らえ……」

「遅い!」

 ウンディーネは、オレがスペルを唱える暇さえ与えずに、氷の槍でオレの体を貫いてた。急所は外しているようだが、激痛がオレを襲う。その瞬間、オレの目の前にいたのは、冷酷な殺人エレメントであった事を悟る。足を傷付けられて、逃げる事もできない。

「うわぁ、殺される……。助けてくれ……」

 オレは、動けない足を無理矢理引きずって扉まで近付く。逃げるのは不可能だと分かっていても、本能が逃げるように力を与えていた。動けないはずの足が痛みを忘れて素早く動く。オレのその動作を見て、ウンディーネは優しい口調に変わり始めた。

「殺さんから安心しろ。少し、頭を冷やして欲しかっただけだ。いくらリゼットの命の恩人とはいえ、いきなり体を弄ぶのは止めてもらいたいと思ってな。お前は、リゼットにとっての切り札だ。でなければ、すぐに捨てて置き去り状態だろうよ」

 ウンディーネは、徐々にリゼットの姿に変化していく。透明ながらも、可愛らしい全裸の彼女が笑顔で近付いてきた。オレは、なんとか落ち着きを取り戻し、全裸の彼女をガン見する。どうやら敵意はないようだ。

「どうやら味方のようだな。リゼットの姿に免じて、しばらく話を聞いてやろう。ゆっくりと話せ!」

「うむ、童貞くさい反応だ。全裸の女の子の体になった途端に静かになるとは……。まあ、話を聞く気になってくれて結構だ。まずは……」

 ウンディーネは、オレと話していると、急に真剣な顔付きになった。オレの方に近付いてきて、ジッと熱い視線を送ってくる。オレの魅力に気が付いて、恋心が芽生えてしまったのだろう。だが許せ、オレはリゼットに一途なんだ。

「うわああ、キスか? オレもファーストキスはまだなんだ。最初にする相手は、リゼットだと決めている。いくら彼女の姿をしていても、そこだけは譲る事はできない!」

「いや、違う……」

「えっ、キスじゃないのか? それとも、リゼットのファーストキスはもう済ませてしまった後なのか? 相手は、あのアレクシスとかいう優男か? ちくしょう、オレのリゼットのファーストキスを……」

「落ち着け、リゼットもファーストキスはまだだ! ついでに言うと、私も処女で、ファーストキスはまだだ。今は、お前に構っているわけにはいかない。アレを見ろ、サラマンダーの首が檻に閉じ込められている。放っておくと、死んでしまう!」

 ウンディーネは、ラシェルが持っていた鳥かごのような檻を指差す。オレが呼び出した火龍が首を切られて入っており、すでに死んでいるように思えた。もう手遅れな気もするが、ウンディーネは真剣にその元に近付いて行く。オレも彼女に吊られて近付いていた。

「もう死んでるんじゃないのか? 首チョンパされてるんだぞ?」

「エレメントは、物理攻撃によって死ぬ事はない。サラマンダーは、炎のエレメントでも下位の存在だが、首を切られた程度ならば回復する。問題なのは、この檻だな。エレメント殺しの加工が施されている。

 閉じ込めて数時間放置すれば、エレメントでさえ消滅してしまう。王族のエレメントではないが、助けなくては可哀想だ。この中に閉じ込められれば、しばらく姿形は維持できるが、死んだ状態で檻から出せば消滅する」

「あれ、リゼットの火龍ならば、王族の火龍じゃないのか?」

「王族の火龍は、ファイヤードレイクという神獣だ。ただ素人が火龍を呼び出しただけなら、ファイヤードレイクが召喚される事はない。下級火龍のサラマンダーが召喚される。王族だけが火龍というスペルを用いて、高位のファイヤードレイクを召喚できるわけだ」

「なーんだ。じゃあ、オレが呼び出した雷帝の麒麟(キリン)も、下級モンスターだったのか。神獣だと思ったのにビビらせやがって……」

「雷帝という単語を用いたのか? それは、まさしく神獣を呼び寄せるスペルだ。だが、過去にその名を用いて神獣を呼び寄せた者は全て死んでいる。王族だけが用いれる神獣を召喚したのだから、神罰を喰らっても当然だ。

 お前が麒麟(キリン)を召喚して生きているのは、お前の実力でも運が良かったわけでもない。リゼットが全力を持って麒麟(キリン)の雷撃を食い止めてくれたに過ぎない。今度からは、絶対に使うのでないぞ!」

「雷帝が麒麟(キリン)ならば、炎帝がファイヤードレイクかな?」

「おい、お前が1人で焼き尽くされる分には良いが、リゼットが近くにいる場合は彼女も巻き込まれるだぞ!」

「わーってるって。それより、ウンディーネさんは王族の神獣なのに優しいんですね。オレが呼び出しても言うことを聞いてくれますか?」

「場合によるな。エッチなお願いは気が向いた時にしか聞かない。リゼットを守るためなら無条件でお願いを聞いてやろう。彼女は、私にとっても妹のような存在だ。私とファイヤードレイクだけが、リゼットが自在に操れるエレメントだ。

 もっともファイヤードレイクは気性が荒い。迂闊に呼び出せば、召喚者(サモナー)を焼き殺してしまうだろう。その為に、リゼットも部分的に召喚する程度で留めている。ファイヤードレイクをそのまま操るのは至難の技だということだ」

「えっ、エッチなお願い事も聞いてくれるんですか? じゃあ、今ならどうなんですか?」

「ふう、2人のお姫様を守る為だ。私で良ければ、多少は相手になろう。オッパイを揉みしだくくらいなら許可してやるよ」

 ウンディーネは、リゼットの姿のままでオッパイを腕の上に置いて見せ付けてくる。透明ながらも形の良いオッパイがプルンと揺れていた。まるで、わらび餅のような透明感のあるオッパイに、オレも触感が気になり始めていた。

「仕方ない、オレとリゼットとの愛を邪魔した償いとして、ウンディーネのオッパイを揉むことで今回は引いてやるか……」

 オレも上着を脱ぎ、上半身が裸になった。明らかに、オッパイを揉む以上の事を要求しているように感じられる。それでも、リゼットの姿になったウンディーネは、年上のような大人の色気と余裕でオレを挑発してきていた。

「種族が違うが、お互いに愛情を持つ事は可能だ♡」

「可愛いよ、ウンディーネ」

 オレは、ウンディーネの魅了にかかったかのごとく欲情する。これが、伝説上の美少女の誘惑なのだ。ファーストキスとか、童貞喪失とか、大切な事を忘れてしまうほどに魅力的な女の子が目の前に存在していた。