ここは、『ダルク』と呼ばれる異世界に存在する王国である。そこのお姫様は、『ダルク リゼット』という名前を持っており、王国の首都より少し離れた場所にあるこじんまりとした田舎で幸せに暮らしていました。

 自分の名前の付けられた『リゼット城』に住み、兵士達と一緒に平和な時間を満喫していました。兵士達の中には優秀な騎士などもいて、その中の数人は彼女の婚約者候補として仕えておりました。

 しかし、彼女の年齢は15歳になったばかりであり、多くの兵士達が彼女を妹としか見ていませんでした。彼女を大切に守ろうという意欲はありますが、誰も彼女を自分の恋人にはしようとしていません。

 昔は、小さくて可愛かった彼女も思春期になり始めると、オッパイが大きくなり始めて人々を魅了するほど可愛くなっていきます。紅一点の生活をしていた彼女ですが、ある出来事を境に自体が一変し始めます。

 彼女には、父親の決めた隣国の婚約者・アレクシス公爵がいました。その男性は、彼女の幼馴染でもあり、誰もが彼女とその男性が両想いだと思っていたのです。そのせいもあって、城内の兵士は、彼女を自分の妹と思って接していました。

 兵士達や街の住民から見ても、お互いに両想いのように愛し合っていたのです。週に何度も会っては、子供ながらの微笑ましいデートを重ねていました。いずれは、2人は結婚して、2つの王国は統一されると思っていたのです。

 それが、リゼット姫が15歳になった今日、一通の手紙で関係が突然崩れ去ってしまったのです。アレクシス公爵がリゼット姫に宛てて手紙を送って来たのです。最初は、彼女も彼からのお祝いの言葉だと思って喜んでいましたが、内容を見て驚愕し始めました。

「リゼット姫、君は我が期待を裏切った。我と君が結婚して、2つの王国を1つにする約束は破棄させてもらう。我は君とその父君を殺して、2つの王国を統一する事にした。なぜなら、君は我が妃に相応しくない。

 よって、『リゼット城』と共に消えて無くなるが良い。すでに、何万という我が手下のモンスター軍団が君の城を取り囲んでいる。逃げても良いが、我は君を決して逃しはしない。我が期待を裏切った罪、君の死をもって償ってもらう」

 リゼット姫が手紙を読み終えると、タイミング良くモンスター軍団が進撃して来る音が聞こえる。お城の窓から見る景色は、すでに地獄絵図と化していた。街の住民は逃げ惑い、彼女の住んでいるお城が徐々に壊されていた。

「なんて事を……」

 リゼット姫が憂いに沈んでいる時間はありません。彼女の側近ともいうべき兵士達によって、彼女が逃げる道を確保されていました。今逃げ出さなければ、すぐにモンスター軍団の手にかかって殺されてしまうでしょう。

「リゼット姫様、早くこの秘密のルートから裏山に脱出してください。城の兵士が一丸となって、姫様が逃げる道を確保しています。モンスター軍団の数が半端ではありません。じきに、ここも陥落してしまうでしょう。

 姫様が裏山に逃げるまでは、あなたの婚約者候補の『メイデン ロマン』と同じく婚約者候補の『ラヴァンヌ クレマン』が保護して差し上げます。裏山まで行ったら、しばらくは私達2人が時間を稼いでおきます」

「その間に、リゼット姫の得意の召喚術(サモン)で、異世界から優秀な魔術師や兵士を呼んで来させてください。我々には、それほどのスペル能力はありませんが、姫様ならきっと優秀な人材を連れて来ることができます。

 アレクシス公爵が、あなたを狙っているのはショックでしょうが、その心の隙間を埋める存在が出現するはずです。あっ、すいません。姫様の心情も知らずに言い過ぎました。愛する人から命を狙われているというのに、配慮が足りませんでした!」

 25歳くらいの男性2人が、リゼット姫を守るようにして移動して行く。愛する男性に裏切られたのは彼女の方だ。理由も分からない一方的な婚約破棄と暗殺宣言、15歳の少女には受け入れ難い事態が展開していた。それでも、彼女は毅然を保っていた。

「いいえ、大丈夫です。アレクシス公爵の婚約破棄の理由は分かりませんが、彼の愛情が薄れている事には気付いていました。ただ、それを信じたくはなかった。私の理解力の無さがこの事態を招いているのです。

 ですが、私も召喚術師(サモナー)であり、この国の王の娘。決してむざむざと死ぬつもりはありません。敵国の兵士を何人殺してでも、なんとか生き延びてみせます。ですから、あなた達も無事にお父様のお城まで辿り着いてください」

「姫様が自らの手を地に染めるとは……」

「何を言っているの。私も何度も暗殺されかけました。その度に、その暗殺者を殺していたのです。私の手など、すでに汚れているのですよ。王の娘として自覚していた時点で、この状況も予想が付いていました。大丈夫、生き延びてみせますよ!」

「我々には、姫様を無事に逃すことしかできません。我々が指揮をとり、何とか多くの兵士達を生き延びさせてみせます。なので、姫様は早く裏山へ逃げてもらい、異世界から来た英雄の力を借りれるように交渉してください」

「分かりました。あなた達の命懸けの保護の為にも、必ず生き延びてみせましょう。私のお父様のお城『ダルク城』であなた達の無事を祈って待っております。生きて、帰って、またお茶会を開きましょう……」

「ええ、お任せください!」

 2人の兵士が秘密の地下通路を開き、彼女を城の外の裏山まで逃げ延びさせていた。彼女は言われた通り、裏山へ行き、自分の得意の召喚術で1人の男性を異世界から呼び出していた。その姿は、タンクトップにトランクスというラフな格好をしていた。

「あれ、召喚術が失敗しちゃった?」

 リゼット姫は、出てきた男性を見て、呆然とたたずんでいた。