学校につくと、いつも以上に教室内がざわついていた。

特に大きな楽しみもない高校3年生の6月、転入生がやってくるというのは、奇跡的なビッグイベントのようだ。

そんな教室の空気をよそに、あたしは自分の席につく。

廊下側から数えて2列目の、後ろから2番目…右隣が葵で、真後ろが夕人、左斜め後ろが紅葉ちゃん…最高としか言い様がない。

そこに座ると、2時間目の小テスト対策に古文の単語帳を読み始める。

転入生が気にならないわけではないけど、皆程は気にしていない。

描き甲斐のある素晴らしい男子なんてそう現れるものではないのだ。

幼馴染だからといって贔屓するつもりはないけど、夕人以上の逸材をあたしは見た事ないし、そうでなくても、モデルをやってくれる男の子は何故かすぐに音を上げる人ばかり。

昨日に葵と話していたような人物である確率は極めて低いのだ。

だからこそ、久しぶりにキャピキャピしている女子の中に混じって話そうとはしなかった。

本音を言うと、喋る時間があるなら眠りたいんだけどね。

実際、あたしの瞼は時間と共に重くなっていく。

「夕人、あたしが寝てたら、授業が始まる前に起こしてね。」

「それはいいけど、寝てたらって仮定形を使いながら、寝る気満々の姿勢を取るのはどうかと思う。」

「訂正。起きなかったら起こしてね、よろしく。」

あたしは後ろの席に夕人に言うと、自分の腕を枕に体を倒す。

ホームルームなんて聞かなくても問題ない。

重要な知らせがあれば、あとで紅葉ちゃんが教えてくれるし、テストや授業が始まれば、夕人が起こしてくれるから。

あたしは周りに依存しきって、安心しきって目を閉じた。