低くて濃い灰色の雲から、次々と落ちてくる雨粒を見ると、先ほどの莉花の言葉が思い出されて、目を背けたくなった。

「でも、均衡が崩れるって嫌だよね。
そんなの困る。
絵もさ、一箇所でも失敗したら、一番良い絵は描けないもん。
それはかなりイライラする。」

その時、どんな事でもバランスが大事なんだと私は思った。

それが崩れるのは、全部が壊れていく事に繋がるのかもしれない。

良い絵が描けないのと同じで、全部が悪い方向に行くのかもしれない。

そう考えると、私の体も同じだ。

何処かが悪くなって、入院して、学校に行けなくなって、莉花が来てくれる夕方以外は寂しくて仕方がない。

「私、雨が嫌いになりそう。」

「均衡で考えたらね。
でも考えようによっては雨様様だよ?
運動会を潰してくれるとか、体育が中止になるとか、マラソン大会が中止になるとか。
今の時期はテニスだし、余計にそう思う!
明日も降らないかな。」

「莉花ったら…」

そんな話をしていたら、明日に来る転校生のことなんてすっかり忘れてしまっていた。

女子としてどうなのだろうとは思ったけど、目の前でまた絵を描きだした莉花も忘れていそうで、私は話を蒸し返さなかった。

莉花が楽しそうならいいや。

私も莉花が楽しそうで嬉しいもの。

莉花が描き終えると、ちょうど病院の夜ご飯の時間で、莉花は慌てて帰っていった。

きっと早く帰らないと、莉花のお母さんにまた怒られるのだろう。

私は莉花が出ていった後に外を見た。

少しして、いつもの傘を差した女の子が、ちょうど来ていたバスに乗り込もうと走っているのが見えた。

「…雨、止まないな。」

私はなんとなく、やっぱり雨は嫌いだと思った。