最初は何となく嫌だった。

全員の視線がこちらに集まって、変に注目されて…こんな状況で立派な挨拶なんてできるはずがない。

だが…意外な事に、興味を持たない子もいるらしい。

今にも倒れてしまいそうなくらい眠そうな顔をして、顔だけ上げている女の子がいた。

おそらくあの子は、僕のありきたりな自己紹介なんてほぼ聞いてないだろう。

それが証拠に、次に僕がその子を見た時は睡魔に屈服していた。

僕が隣に座ってもその子は起きないし、ホームルームが終わっても起きないし、なんなら1時間目の授業も起きていなかった。

進学校に転校したはずなのに、高3でこの授業態度は流石に驚く。

僕はその子に逆に興味がわいたぐらいだ。

だが転校初日…色んな子が声をかけてくれる中、休み時間になっても起きないその子とは話せなかった。

気になっていると、一人の男子が声をかけてくれた。

「その子、2時間目になったら起きると思う。」

振り返ると、斜め後ろの席の男の子が諦めたように笑っていた。

「僕は壺井夕人。
席も近いし、よろしく。」

「よろしく、壺井君。」

「夕人でいい。」

「分かった。
俺も皓でよろしく。
で…その子本当に起きる?
っつか生きてる?」