頭を下げた彼は確かに魅力的であった。 

このあたしが是非一枚描かせてくださいと、頭を下げたくなる程に。

驚いて一瞬顔を上げたあたしだが、睡魔は強かった。

奴はあたしの目蓋を閉じさせようと追い討ちをかけてくる。

あたしはチラリと一時間目の授業を思い出す。

数学の演習だ。

これなら正直起きてなくてもいいし、先生だって起こさないと思った。

睡魔の勢力が増し、あたしは机にひれ伏した。

呆れたようにあたしの名前を呟く夕人の声を聞きながらも、あたしは諦めたのだ。

今どんな話を聞いたって覚えられないし、覚える気にもなれない。

だったら眠りについた方がよほどいい。 

今朝は転校生君のせいで外野が煩いが、穏やかに心地よい世界に旅立つのには何の問題もなかった。

「霧島君の席は…廊下側の席の後ろから二番目ね。
一番後ろじゃダメなのよ。
今日はお休みだけど、ちょっと体の弱い子がいて、その子がいつでも保健室行くために、一番ドアに近いところは空けているの。
だから霧島君はその前ね。
そう、あそこ。」

「末方さんいいな。
霧島君の隣だって。」

「それで後ろが壺井君でしょ?
莉花ちゃん、本当に羨ましい。」

耳に入ってきた情報は、仕方なく右から左へと流れていくだけで脳には留まらない。

気づいた時には、深い深い眠りの中だった。