それから何分経ったか分からないが、後ろから、いつものリズムでゆすられる。

そして、周りに迷惑がかからない程度の声で名を呼ばれるのだ。

「莉花、莉花起きて。先生来た。」

目の前には、担任の英語教師、栗原若菜(くりはら わかな)が立っていて、何やら話している。

寝起きの朦朧とした意識の中、簡単な話も耳には入ってこない。

あたしは椅子を極限まで後ろに下げて、後ろの席の彼に言った。

「授業まだじゃん。ギリギリまで寝かせてよ。」

「莉花、今日が何の日分かって言ってる?
転校生の自己紹介くらい聞いたら?」

そうか、今から転校生が来るのかと、動きの悪い頭の中で繰り返す。

流石に起きていた方がいいという考えと、どうでもいいから寝たいという欲望がせめぎあう。

そんな中、先生が知らない男の子の名前を大きな声で言った。

「霧島君、入ってきて。」

教室の黒板側のドアが開き、そこから光が入ってくる。

風邪が強いのか、前にいる先生の長い黒髪が揺れた。その風に背中を押され、彼は教室の中に入ってきた。

途端、教室の温度が少し上がる。

上がったのは、彼の顔を見て笑顔になった女の子達のせいだろう。

入ってきた彼の横顔は、後ろにいるあたしにもハッキリ伝わる程整っていた。

彼は教壇の前に立つと、ニコっと笑う。

「初めまして。
今日からこのクラスの一員になる、霧島皓(きりしま ひかる)です。
よろしくお願いします。」