夕食後、食器を洗って居間へ戻ると、義雄がなにかを思い出したように居間を出た。「皆さんにちょっと協力して欲しいことがありまして」と戻ってくる。

彼の持つお盆には、淡い黄色の長方形が載った皿がある。

「よかったら、トシさんと茂さんも」義雄は言いながら皿を並べた。

「ええー、羊羹です。昨日こうのはなに、なにか新商品を作れないかという話になって、薫が色々と提案してくれまして。で、まあ……」

「それの試作と」雅美が言った。「その通りであります」と義雄は小さく笑う。

「作れたんだね」

「まあ、羊羹作るのに水が必要なんでね。それを、案の出たパイナップルとバナナのジュースで――」

「じゃあまあ、食べてみましょう」雅美は義雄の言葉を遮った。義雄は彼女の隣に腰を下ろした。

「いただきます」と手を合わせ、一方の羊羹の半分ほどを口に入れた。

「あっおいしい」薫子が隣で言った。「本当にバナナだ」

「パイナップルもちょっと……」うまいかと口角を上げる義雄へ、僕は小さく頷いた。

「いいんじゃないかしら。薫子ちゃん、よく考えたね」トシさんは穏やかに言った。「義雄さんも上手に作ったね」

恐縮です、と義雄は嬉しそうに笑った。

「これ、本当にメニューにできるんじゃないですか? わたし、これになら喜んでお金出します」

「えっ、本当? いくらくらいいける?」

「百六十円かな」僕が言った。「おい」と義雄は食い気味に声を上げた。

「そんなに安いか。手間掛かってんだ、これでも」

「わたしは四百五十円くらい出しますよ。本当に美味しいですもん」

「四百五十円――まじで?」

「はい。おいしいです。今日藤原君が食べてた普通の水羊羹も、あれ二百五十円なんですよね。安くないですか? そもそも、全体的に安すぎる気がするんですが……」

「ああ、それはそれくらいでいいの」雅美が言った。「安くて普通以上のものを出すのがポリシーだから」ねえおばあちゃん達、と彼女が共感を求めると、「そうだよ」とトシさんは茂さんと穏やかな声を重ねた。

「ああ、おばあちゃまとおじいちゃまですもんね、こうのはなを創ったの」

「そうよ。もう半世紀以上も前のこと」