長い沈黙が続く保健室。
無言の空間の中、朝の慌ただしさが音で伝わってくる。
稚尋と澪がいる保健室だけは、時間が止まっているように思えた。
「あんた……本当に最低っ!」
先に口を開いたのは澪。
涙混じりの声は、少しだけ震えていた。
時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。
稚尋は何も言わず、ただ外を眺めているだけだった。
人のファーストキスを奪っておいて、何?その態度。
そう言いかけて、澪は言葉を飲み込む。
私は、彼にとって、暇潰しのオモチャに過ぎなかったのだろうか。
バカみたいだ、本当。
「……出てってよ」
こんな顔じゃ、教室にも戻れない。
澪は稚尋の背中に向かって言い放った。
しかし、稚尋は何も反応しない。
聞いてないフリ?
どこまで性格悪いのよ。
稚尋に呆れ、澪は大きなため息をついた。
そして。
「……出てってってば!!」
今度はもっと大きな声で、稚尋に言い放った。
澪は一人になりたかった。
一人になって、思い切り泣きたかった。
稚尋の前では、これ以上泣けない。
彼に見られる泣き顔が、悔しかったからだ。